▹いつメン水入らずの梅雨

6/10
3123人が本棚に入れています
本棚に追加
/200ページ
「お前……いつもそうやって茶化すが、そういう照れ隠しか?」 「言っときますけどノンケでこの対応はかなり優しい方ですからね」 「おかしいな、俺様にこんなに甘く囁かれたら異性愛者だとしても顔を赤らめるくらいはするんだが…」 俺は今会長にドン引きで顔真っ青だよ。 おかしいな…ってまるで俺が悪いみたいに話すけど、頭がおかしいのは会長の方だろ。その顔面じゃなかったら鼻に一発ぶち込んでいたかもしれない。 まだ早朝だから人通りは少ないが、それでも勤勉な生徒達はもう校舎に来ていたりする。俺と会長が通る度に、先程から歓声や悲鳴や水溜まりに倒れ込むような水音が響いていた。 その一般生徒の様子を見てやはり…と何か思い当たったような顔をする会長。 「保泉お前…こんなに長く居て俺様に魅力を感じないなんて性機能障害の可能性があるんじゃないか?相談なら乗るぞ」 「危なかったですね会長、今二人っきりだったら会長の性機能を破壊してるとこでしたよ!」 玄関に着いたところで、早々に会長に別れを告げ風紀委員室に逃走する。付き合ってられん。 それに会長に捕まった事でかなりタイムロスしてしまった。ほんとは駆け足で校舎に行く予定だったのに!というのは、寝坊したのを会長に八つ当たりしているだけだけど。 風紀委員室の扉を開くと、窓に向かって佇んでいる不破委員長の姿があった。 どこぞの社長のような風格だ。 「おはようございます委員長!そーんな黄昏ちゃって、なんか面白いものでも見えるんですか?」 「ああ、生徒会に尻尾を振る駄犬がよく見えた」 「ひぇ」 梅雨の湿った冷気が更に冷えた気がした。 「いやちょっとあの違うんすよ、偶然ばったり出くわして避けるのも感じ悪いし生徒会と風紀はそもそも一蓮托生じゃないですか〜」 「…まあいい。保泉に取り急ぎ伝えておきたい話があって呼び出した」 ふっと委員長の纏う空気が柔らかくなり、とりあえず肩をなでおろす。 言い訳するようなやましい事はなかったがそれでも弁解するのが忖度というもの。偏屈な上司を持つと苦労するよ。 にしても話とは。 メールではなく対面で伝えるような内容なら、きっと真剣なものなんだろうけど。 「なんでしょう?」 「最近校内で流れている『保泉に関する噂』だ」 … 委員長から語られたその『俺に関する噂』とやらの内容を聞いて、当の俺は苦々しい溜め息を吐く事しか出来なかった。 きっとろくな事にはならない。 そして嫌な予感というものは、往々にして当たるものと決まっているのだ。
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!