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「はあああぁ………」
後輩に手を上げてしまった。
まあ風紀の業務があるから初めてではないけど、何度やっても気分が良いものではないよね。
…多少腹立つ相手だったらスカッとするけど!
空き教室を出て人の少ない廊下に着くやいなや、力が抜けて座り込んでしまった。
怒りやら罪悪感やら遣る瀬無さやら。
恐らくこの陰鬱な天候に気分が引き摺られている部分もあるとは思うが、憂鬱だった。
…チセの騒動はそこそこうまく対処できてると思ってたんだけどな。
「全然じゃねーか……」
「何がだ」
「えっ」
びっくりするし恥ずかしいから独り言に返事しないでほしい。曲がり角からぬっと現れたのは、教室に居るはずの桔梗の姿だった。
なんで居るんだよと思ったが、一拍置いて、まあ此奴ならいいかと思い力を抜く。
「風紀を守るのも大変だなーって話」
「また絡まれたのか」
「そゆこと!」
正解百点花丸〜と拍手すると桔梗は微かに苦い顔をした。なんでお前がそんな顔するかな。
そこで弁当の事を思い出し、そりゃ苦い顔もするかと頭を抱えた。
「もう昼休み終わっちまうな、すまん弁当…」
「弁当なら持ってきたから此処で食え」
「え!?」
「次の授業は五味だから問題ない」
成績優秀で授業をサボるなんて想像もつかないような真面目な桔梗さんが、今なんて…!?
ああ五味センならいいね〜とはならんだろ。いや、多少お目こぼしはしてくれると思うけど。
俺はともかく桔梗がそんな提案するなんて思わなくて唖然としていたら、口におにぎりを突っ込まれた。
そんなに弁当食わせたかったの?
「うまぁ」
「残さず食え」
「はーい」
いつもだったら地べたに座ってご飯食べるなとかチクチク言われてるとこなのに。
午後の授業開始のチャイムが鳴る。
遠くから聴こえていた生徒達の話し声も止み、授業が始まったようだった。
あーあ、二人揃って無断欠席とか絶対変な事言われる…なんて女子中学生のような考え事をしていたら、不意に次のおにぎりを持ちながら待機している桔梗が視界に入って思わず笑ってしまった。
「ふ、ふふ…これあれみたいだな、万と万尋の神隠しの泣きながらおにぎり食うシーン。俺は泣いてないけど」
「…ああ」
桔梗も思い当たったのか、微かに眉尻を下げて柔らかい表情をした。
桔梗はいつだって俺の気が滅入ったタイミングによく現れる。それが偶然とか必然とかどうでも良くなるくらい、此奴の隣に落ち着いている自分が居た。
…おにぎり食って機嫌直るとか、俺も平くんのこと言えないな。
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