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生徒会室も例によって用のない一般生徒が近寄る事は禁止されている。だから俺も風紀の用事以外では入った事がない。
副会長と共にしれっと入室した生徒会室には、普段のカッコつけはどこへやら、机に潰れているマキノの姿があった。
「戻りました」
「副会長おかえりぃ…」
マキノは顔を伏せたまま動じない。
副会長が口の前にそっと白魚のような人差し指を立てて微笑む。俺は望み通り口を噤んで気配を殺した。
「マキノ、休憩はおしまいですよ」
「え~まだ足りない…シケたツラばっかで気が滅入るよ…誰か抱きたいなあ…」
「困りましたねぇ、抱かせる為にお連れしたわけではないのですが…」
「えぇ?」
副会長に向かって抱くとか抱かないとか破廉恥!
会話の流れに怪訝そうな顔をしてこちらを振り向いたマキノ。その端正な顔が強ばるほどの驚いた様子に、にやりと口角が上がるのを感じた。
「よおマキノ。風紀委員室に連行されるのと俺に慰められて仕事を頑張るの、どっちがいい?」
「保泉ちゃんに慰められる方!!」
椅子を飛ばす勢いでこちらに駆け寄ってきたマキノの尻に、無いはずの尻尾が見えた気がした。
勢い余って抱きつかれたけど体幹が鬼な俺はこれくらいで倒れたりしないのだ。でも邪魔。
「なんで居るのぉ?オレに会いに来てくれたの?」
すり、と擦り寄ってくるマキノの呼気が首元に掛かる。心底嬉しそうな声色にまあ悪い気はしないけど、スキンシップ過多。
「小雪に会いに来たんですー、勘違いしないでよね!」
「あは、ツンデレだぁ。勘違いして触りまくってもいいってこと?」
「オヤジかお前は!!」
そっと副会長がマキノの襟首を掴んで引き戻してくれる。解放されたところで生徒会室を見渡したけど、そこに小雪の姿はなかった。
あれ?
「小雪ちゃんは奥の休憩室でおやすみ中だよ~」
「御子柴と八重樫は何処へ?」
「体育委員長と打ち合わせ」
八重樫というのは生徒会書記の先輩。
図体がでかくて寡黙で…今はあんまり関係ないか。
にしたっておやすみ中に話し掛けに行くのは忍びないけど、大丈夫だろうかと副会長の様子を窺えば「善は急げですから」と微笑を頂いてしまった。
そっと休憩室の扉を押し開く。
キッチンやシャワールームが併設されているようで、まるで誰かの部屋のようにあらゆる設備が整った空間だった。
そんな部屋の中央にあるソファで横たわる人影にそっと近付くと、向こうも俺の存在に気付いたようで起き上がる。
「ごめん!そろそろお仕事しないとだよね」
「まだ休んでていいって副会長が言ってたよ」
「………あれっ?透?!」
目を丸くして驚くあどけない顔。
この学園でも目立つ薄桃色の髪、補導されかねない小さな体躯、ドールのように整った容姿をした彼が小鳥遊小雪だ。
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