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何故か、あの珈琲を探して
断罪され流刑の地で探すのは
あの珈琲というと
大袈裟かもしれない。
あの珈琲に出会った事を
思い出す。
あれは、、
秋
以後
副女=副女会長と呼ばれる事に
なった私は、
役付きPTA役員の
承認を無事に受け、
牙城となるPTA室の鍵を
その手にした。
『いらっしゃい。必ず来るって、
思ってましたよ。副女さん。』
先生は、そう言って
家庭準備室にズラリと並べた
プラ味噌樽の1つを
机においた。
目の前で
手作り味噌教室の準備をする
『先生』は、
厳密にいえば先生ではない。
略称で先生と、この地域では
呼ばれている。
その理由は、
副女になって初めて知り得た。
私が副女になったその日に
この人は 現れた。
『こんにちはー。今代副女さん、
この度は、おめでとうござい
ます。これから、学校でも、
良く会うと思いますし、
これでも副女OGですから、
頼りにしてくれていいですよ』
降って湧いたような
役員人事で手にした
P室の鍵。
それを使ってドアを副女として
初めて回した瞬間、
胡散臭い笑顔を満面に湛えて、
後ろから声をかけてきたのが
この『先生』だ。
あれから1ヶ月。
「先生、れいのモノを、」
私が
みなまで言う前に、
「はい。よろしくてよ。」
と、軽やかなステップで
ピンクのフリルエプロンの
リボンを靡かせ
先生は
奥にある冷蔵庫に
歩いていく。
それだけで、この人物像が、
小学校家庭科準備室の主なのだと
即座に理解できた。
教職員でもないのに。
面白い。そーゆーことか。
私の訝しげな、視線を
モノともせずに、
先生は恐ろしく綺麗な顔で
微笑む。
「じゃあ、それで。大と小。
どっちにします?数は?」
先生は冷蔵庫から、
2つの大きさのブツを手に
戻ってきた。
準備室の机には、
家庭室と同じように椅子がある。
「時間あったら、そこにかけて
もらって、、あ、ちょっと
待ってくださる?蓋だけ、全部
閉めておかないと。ええっと」
先生が 机に並んだプラ樽の蓋を
取り出すのを見て、
私はそれを、
即座に手伝う。
「あら、気が利くのね。そうじゃ
ないと副女なんて出来ないわよ
ね。ウフフ。ありがとう。
ついでに、全部隣に運んで
もらっていいかしら?ね?」
まるで
手伝われるのが
計算済みだといわん笑顔で
横のドアへと、
私は促されて、
味噌プラ樽の蓋を閉めた後に
体よく幾つも樽を
運ばされた。
「手作り味噌の講習会をね、
明日の放課後に家庭科室で、
するのよ。チラシ、見てない?
副女さん、どう?まだ樽が
あるから、講習会当日でも
受付するわよ?あ、そうだわ!
新しい女役員さん達にも声を
掛けてもらっても大丈夫。」
実に、まるで百貨店の外商ばりな
トークを
白百合が香るぐらいの
然り気無さでもって
講習会へ参加のみならず
人集めさえ
勧めてくるとは。
初めて会った時に感じた
イメージは間違っていなかった。
現代版、魔女。それも、美魔女。
「先生、なら明日、参加します。
会計さんと、書記さんも声を
掛けますから、3人追加です。」
観念して私が言うと、
美魔女の赤い口が弓なりに
上がった。
「無理してない?忙しいでしょ、
役員に急になって、引き継ぎも
なかったんだから。いつでも、
頼ってね。あ、それで、これ」
オ・マ・ケ
と、綺麗に手入れされた指で
示されたのは、
さっき私が先生から
冷蔵庫から出してもらったブツと
同じブツ。
「今代副女さんなら、わかって
くれるって思ってたわ。さすが
ピンチヒッターで会長が連れて
来た人だけある。良かったら
毎月分けてあげれるわよ?
いつでも、この冷蔵庫にある
から、毎月P室に運んであげる」
立てロールって、
どうやってヘアセットしている
のだろうか?と思う
立て巻きを
くるんくるん揺らして
先生が人差し指を立てると
内緒よと
提案してくる。
要は、このブツを毎月買えと?
まあ、
ここへ来た時から
手に入れるつもりではいたけど。
「有り難うございます。大を
2つと小を1つお願いします。」
私は先生にそう言って
神妙に
頭を下げた。
「じゃあ、今月分を今渡すわ。
支払いは此でね。ちょっと
お高いけれど、丁寧にハンド
ピックした原種オーガニック
を自家中深煎りしたのだから」
先生は
つけまつ毛を節目がちに
させて
メモにgあたりの金額を書いて
出す。
「わかってます。飲んで、
目の覚めるクリアさに、
温泉地の湧水で淹れたかと
錯覚するほど驚きました。」
これは正直な私の感想だ。
でなければ、
こんな外れにある家庭科室まで
足を運ばない。
「本当に副女さん、さすがね。
じゃあ、取引成立。これから
よろしくね。副女さん。フフ」
一体何歳なんだろうと
思いつつ、
「明日、味噌講習会の時に
お代を払います。明日よろしく
お願いします。失礼します。」
用が済んだら即座に退散。
この美魔女には
なるべく関わらないが
得策だろう。
私は張り付けただけの
最高の猫笑顔で、
先生に会釈をして
家庭科準備室を足早に
脱出した。
これが、
私と先生のファーストコンタクト
初めての契約となる。
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