覚醒

1/5
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ

覚醒

――ギィィィ  棺桶の扉が開けらえる音が聞こえた。  瞬時に意識が覚醒させられる。  敵襲を警戒し、吾輩は眠りに着く前の記憶を辿った。  かの鬼将と称された串刺し公と大国との戦が終局し、幾月が流れたことは鮮明に覚えている。  連夜で続く処理対応の中、ついに腰を痛めた吾輩は休息を得るため、愛用の棺桶で眠った。  稀に外が騒がしい時が多々あった。  眠りが浅い時もあったが、太陽の光が入らなければ死ぬ事もないため、深く気にせず眠りを貪った。ともすれば、味方が何かしらの急務で吾輩を起こしに来た可能性も有り得る。  もう少しだけ惰眠を貪りたい欲に駆られたが、後々面倒な事になるのが容易に想像できるため、吾輩は身体を起こした。 「うわっ、本当にいた。生きてるし」  目を開くと眠りが一瞬で覚める金髪の美女が立っていた。  ややたれ気味の目に柔らかそうな唇。右側にあるホクロがセクシーな印象を醸し出している。  誰かに似ている。  咄嗟にそう思い至り、件の誰かを思い出そう記憶の糸を辿ろうしたとき、彼女の言葉で思考は無理やり中断された。 「作法が不躾なのは先に誤っておくけど、単刀直入に言うわ。邪魔だから出てってくれない?」  言葉の意味が理解できず、吾輩は言葉を失った。  周囲を見渡すと、そこは勝手知ったる城とは似ても似つかぬ場所だった。  趣味の観葉植物。  お気に入りのステンドグラス風の天窓。  色に拘った絨毯。  何もかもがなくなり、がらんどうへ変わり果てていた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!