目的の地で(三)

1/1
前へ
/22ページ
次へ

目的の地で(三)

「ええと……今のお前より、一つ二つ若かったかもしれん。俺の師は剛胆な人でな」  近所までの使いを頼むように、軽い調子で山裾まで連れられた後、一人山中に放り込まれたという。 「一人で……!」 「あの人のやり様は荒っぽいから。行き方を書いた紙切れだけが頼りでな。それでも結局は、見事に辿り着いて、師の期待に応えたわけだ」 「……凄いな」  玉瀬は心から言った。素直に感嘆しているのだ。  と、ここで、美女の一人が可笑しそうに笑う。 「こりゃあ、大分と話をはしょったねえ」  そう言うので、玉瀬は首を傾げた。 「と、言いますと?」 「うん。晴は、確かに一人で里に来たよ。けれどさ、それまでに三回も、半べそで山を下りてったの。その度、師に喝を入れられて、渋々戻ってきてたっけ」  にやりと目を向けられて、晴道はきまりの悪そうな顔をする。 「……戻ったのは二回です。それに、半べそなんてかいてません」 「あ、ごめん、ごめん。お弟子には格好つけたかった?」 「おれ、聞かなかったことにしますよ」 「あらま、いい子に師事(しじ)されて良かったねえ」  玉瀬は気さくな狐たちと早くも打ち解け、さらりと返す。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加