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目的の地で(三)
「ええと……今のお前より、一つ二つ若かったかもしれん。俺の師は剛胆な人でな」
近所までの使いを頼むように、軽い調子で山裾まで連れられた後、一人山中に放り込まれたという。
「一人で……!」
「あの人のやり様は荒っぽいから。行き方を書いた紙切れだけが頼りでな。それでも結局は、見事に辿り着いて、師の期待に応えたわけだ」
「……凄いな」
玉瀬は心から言った。素直に感嘆しているのだ。
と、ここで、美女の一人が可笑しそうに笑う。
「こりゃあ、大分と話をはしょったねえ」
そう言うので、玉瀬は首を傾げた。
「と、言いますと?」
「うん。晴は、確かに一人で里に来たよ。けれどさ、それまでに三回も、半べそで山を下りてったの。その度、師に喝を入れられて、渋々戻ってきてたっけ」
にやりと目を向けられて、晴道はきまりの悪そうな顔をする。
「……戻ったのは二回です。それに、半べそなんてかいてません」
「あ、ごめん、ごめん。お弟子には格好つけたかった?」
「おれ、聞かなかったことにしますよ」
「あらま、いい子に師事されて良かったねえ」
玉瀬は気さくな狐たちと早くも打ち解け、さらりと返す。
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