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戦争というやつらしい。
詳細は知らない。民衆に知る権利も必要もない。知る権利があっても何もできない。
おばあちゃんがいうには、これは起こるべくして起こった戦争なのだ。小さい国は抵抗むなしく滅ぼされ、その国の一番大きな都市に、死者への哀悼として私の生まれ故郷と同じ名前がつけられた。
故郷の名を冠した都市こそ制定されたが、滅びた国が弱小国の集う連合に所属していたことから、別国による報復テロがはじまった。
一見平和に見えるこの沿岸部にだって、爆弾下着を着た外国人が潜んでいるかもしれない。彼らがサーフィン、ハイキング、ショッピング、ご近所付き合いを楽しんでいるならば、私たちの仕事が必要となる。
「危険物反応さね。あのスクランブル交差点、青になっちまうよ!」
ボトル式湯呑みを片手で支え、おばあちゃんは急降下した。ドローンのお節介による自動ベルトに助けられ、私もその動きにしがみつく。
まるで地上が襲いかかってくるようだが、近づいているのは私の方だ。大きなピアスが風圧で暴れる。耳の周りを打たれたようで、すごく痛い。しかしこのことをおばあちゃんに報告するとピアスを取りあげられてしまうから、必死に耐えるしかない。
駅前の大きなスクランブル交差点では、歩行者用信号が変な音楽を流していた。浮島のような歩道から一斉に人々が道路の中央に向かっていく。彼らは互いにぶつかることなく道路を渡るだろうが、テロリストが紛れていたら話は別だ。
鋭い光とともに爆発物が破裂すると、歩行者の体も同じようにバラバラになり、一瞬の間に小汚い音を立ててぶつかりあい、駅前は地獄絵図に様変わりする。
「治安警備隊だ! その男から離れろ!」
おばあちゃんが野太い声を出したときには、もう危険物反応の発生地である男は倒れていた。彼が交差点の中央に着く前に、おばあちゃんがドローンの自動照準の力を借りて射殺したのだ。
人々は中央を迂回して対岸へと走って渡った。空から見ると、男を中心とした渦のようだ。目前のショッキングな事態に車も動くことをやめ、道路は気味の悪い静寂に包まれている。
「花子、応援はいつ来るんだい」
「もう着く。爆発物処理班もいるって」
おばあちゃんはぶ厚い眼鏡をかけ、道路の奥から走ってくる軍用車を見つけると、満足したのか眼鏡を外し、踵を返した。
私たちの仕事はこんなものだ。徴兵で人手が足りない現在、地元の警備は適正テストに合格した老人が担当する。私は本来あと二年しないとこのような仕事ができないのだが、山間基地の仕事で疲れきった大人たちを見かねてボランティアに志願した。
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