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 戦うのは怖い。死ぬのは怖い。  さっきの射殺だって、本当は見たくなかった。今もたまに志願したことを後悔している。  だけど、私は雄二に出会うことができた。彼は掃討攻撃用無人ドローンや、警備巡回用有人ドローン公安認証機——私の魔法のじゅうたんだ——の整備を行う、私と同じ高校一年生だ。  不安なことを話しあったり、共通の友人を探したりと、二駅先の高校にいた雄二と距離を縮めるのに難しいことはいらなかった。  彼氏なんて無縁のものだと思っていたから、雄二から告白されて三ヶ月経つが、たまに夢の中にいるのではないかと疑うときがある。それくらい二人の時間は濃厚で、楽しくて、心が躍る。  雄二のことを考えながらでこぼこの街並みを見下していると、いつの間にか山間基地に戻っていた。木々に覆われた入口が焦らすように開き、数人の整備士が待機しているのが見える。  青い服を着てこちらに手を振る男たち。私は、その列の真ん中で凛とした立ち姿を見せる一人の男を凝視した。 「おつかれ、無事でよかった。あそこ俺の最寄駅だったんだ。爆発から守ってくれてありがとう」  雄二は少し高い位置にある顔をゆっくりと近づけ、私を覗きこんだ。恥ずかしい気持ちを抑えて視線を合わせると、彼は私のピアスを優しくはじき、いたずら好き特有のクシャッとした笑顔を見せた。 「止めたのはおばあちゃんだよ。私はついていっただけ。男が無人ドローンの探査をすり抜けてたってことは、男が持っていたのは即席爆弾だったのかも——」  雄二は仕事っぽい話が嫌いだった。人前で私の唇を塞ぐくらいだから、よほど気に入らなかったのだろう。 「九時に部屋、来て」  周りにいたおじさんたちのうるさい声援を背に、雄二は何食わぬ顔でドローンのもとへと向かった。  顔の火照りが冷めないうちに、遠くで壁にもたれかかるおばあちゃんが私の名を呼んで、「報告するからデバイスやっておくれ!」  職場の先輩であるおばあちゃんは、大の機械音痴だ。報告義務を果たすためにデバイスを弄ってはいるものの、駆けつけて画面を覗きこむと、驚くことに電源すら入ってなかった。  おばあちゃんは半ば諦めるようにデバイスを手放し、ストレッチをはじめた。 「いっち、に。いっち、に。花子、巡回中はピアスを外しな」  心臓が跳ね、声がうわずった。 「別に邪魔じゃないしいいでしょ。雄二から貰ったものなの」 「ボランティアでも仕事は仕事。アクセサリーなんて外しときなさい。雄二さんからの頂き物ならなおさら——」 「私の勝手でしょ。はい、報告終わったから。細かいところは現地の解析班がやってくれる」  爆弾ゲームのようにデバイスをおばあちゃんに押しつけて、私は鉄くさい格納庫をあとにした。
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