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 常に急いでいる大人たちの流れを邪魔しないよう廊下の端っこを歩き、自販機が並ぶ休憩エリアをすぎた先の角を曲がると、仮の居住エリアがある。  基本的に職員は街に住んでいる。しかし私の場合は特別だ。唯一の肉親であるおばあちゃんが住み込みで勤務していたから、ここに転がりこんだのである。私と同じような境遇の職員はみな、世帯集まって居住エリアに暮らしている。  私は肉親がいるだけマシだ。雄二のように天涯孤独となってしまった人も大勢いる。彼らは二、三人で同じ部屋に住むのだが、雄二の同居人は一ヶ月前、テロリストの自爆に巻き込まれて死亡した。二人は十七歳だった。休日に温泉へ向かうため電車を待っているとき、交通網の麻痺を狙ったテロの犠牲となった。  そのとき無人ドローンの緊急整備が行われていなかったら、雄二も二人と一緒に死んでいた。彼は二人を忘れたくないといい、今も転居を拒んでいる。みんな彼を心配したが、その部屋に私が入り浸っていることを知ると、口を挟んでこなくなった。  学校の課題に頭を抱えていると、短針が九を指しかけていることに気づいた。部屋の照明に構うことなく寝ているおばあちゃん。なぜか監視されているようだ。この状況は勉強の後押しをしてくれるものの、息苦しい。だから余計に、雄二の部屋が恋しく感じる。  音を立てず扉を開き、私は通いなれた雄二の部屋を目指した。唇を噛んでは優しく舐め、緊張を必死に隠す。こうして毎晩のように会っていても、二人ですごす夜はいつまで経っても初めてのようで、心臓に悪いばかりだ。 「よ、五分前行動ってやつだね」  部屋の前で待っていた雄二に背中を押され、私は動悸のやまないまま、いや、むしろ悪化しながら大好きな空間に通された。二つの二段ベッドの圧迫感はいつ見ても恐れ入る。使用感があるのは、入って左下のベッドだ。枕は二つある。それが嬉しかった。 「食堂で貰った。一緒に食べよう」  そういって、雄二は板チョコを半分にした。高身長で人懐っこい彼は、食堂のスターなのだ。  ブロックごとの切れ目を無視してかじりつくと、雄二は、大胆だねと笑った。私には三口で食べ終わった彼の方がずっと大胆に思えた。  二列のチョコを残して銀の包みで覆うと、雄二は私の狙いに気づいたのか、繊細だねといって笑った。繊細なのは私ではなくおばあちゃんだ。綺麗に包んでおかないと汚れを気にして食べてくれない。  チョコの欠片をテレビ台に置くと、雄二は座りなおした。ベッドが大きく軋んで変な音がでた。それが可笑しくて、静かに笑って、私たちはじっと見つめあった。  チョコの甘みが空気に溶けたかのように、それは甘い。それはチョコと同じ味だった。何度してみても、少し味は薄くなったが、やはりそれは最後まで甘かった。
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