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3
何回も何回も、お互いを溶かす。雄二の歯茎は弾力があって、舌で押すと枕のように押し返してくる。こうして遊んでいると、相手は挑発されたように感じるのか、柔らかいヤスリのような舌が歯の裏側に侵入してきた。それと同時に、彼の手が私の後頭部にまわり、興奮と安心が混ざった不思議な感情が溢れる。
何分経ったかはわからないが、私たちはひとまず休戦として、ベッドに身を預けた。重力から解放され、こんな狭い場所なのに開放感が背中を走る。ふふ、と含み笑いをすると、雄二は低い声で、はは、と返した。
いっそのこともう寝てしまえ、そう思う反面、まだ足りない感覚。雄二も太ももをすりすりと動かして、子犬のような瞳で私を見つめていた。
そう、私たちは完全に忘れていたのだ。今が戦時中だということを。
基地内にけたたましい音が響いた。怪物が怒ったらこんな声をあげそうだ。サイレンにカンカンという擬似的な鐘の音も重なり、機械的なアナウンス音声が響く。
「敵勢力の攻撃あり。職員は至急、戦闘態勢に入ってください」
溶けだしそうだった体は急速冷凍され、私たちはベッドから飛び起き、見えない糸に引かれるように格納庫へと走った。シャツ一枚の連中で廊下が満たされ、雄二とはぐれてしまったとき、大地の揺れと轟音が襲った。
基地はこれでもかというほどの衝撃に見舞われ、私たちは地面に足を掬われる。誰かが誰かの緩衝材となり大きな怪我をした者はいないが、私を含め全員が頭を抑えていた。
基地への直接攻撃だ。耳鳴りだけが聞こえる。廊下は現れたり消えたりして、ずっと縦や横に揺れている。なんとか体勢を整えようと壁にもたれかかると、ぐんと体が軽くなる感じがした。照明の点滅でしばらく頭が混乱したが、雄二の両手の上に乗っかっていることがわかった。
怪我はないかと聞かれ、私は頷いた。目的地は言わずもがな格納庫だ。しかし廊下の先では数人が足を止め、後ずさっている。
そのとき、叫び声が聞こえた。すぐにフルオートの銃声にかき消されたが、再び違う叫び声が響いた。まるで二つの音が背比べをしているようだ。
こちらに向かい走ってくる人の間、人影が見えた。輪郭がはっきりしてくると、それが人でないことがわかった。
いわゆるロボット兵だ。それも遠隔操作型ではなく、完全な自立タイプ。
私は絶望した。きっと他の職員も同じ気持ちだ。この国が相手取っている弱小国連合がこんな兵器を持っているはずがない。彼らのバックに大国がついたのだ。
この国を、完全に潰そうとしている。
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