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私たちは走った。歩き慣れた廊下が滑りやすいことに初めて気づき、寒気が走る。基地の奥にある武器庫までの道のり、決して振り返ることは許されない。
足音と同じような音、バタバタといった音で、後ろを走る職員たちが倒れていく。ロボットは熊のような猛獣と似ていて、視界に映った標的を襲う。動物と違うのは、恐怖心がないところだ。武器庫で待機していた職員の攻撃も、まるで牽制になっていない。
私たちは小銃を手渡された。射撃訓練は受けたが、あくまで練習にすぎない。私は自分がどれだけドローンの自動照準に依存してきたかを思い知らされた。
「ここで待ってて。ロボット兵が減ったら格納庫へ向かう」
雄二はそういって、扉から身を乗りだした。私は慌てて彼の体を引っ張り、銃声に負けないように声を張りあげた。
「奴らは格納庫から入ってきた! 今行っても無駄死にするだけ!」
「戦闘態勢に入ると、ドローンは格納庫地下に隠される。もうすぐ応援も来るはずだ。ドローンを取ってくるから、待ってて」
廊下から爆発音が聞こえた。雄二は応援が来たと叫び、小銃を構えて武器庫入口から外に飛びだした。
追おうとする私を掴み、先輩の職員は前に出た。私の腕前では雄二のバックアップはできないと、言葉なしで伝えられたのだ。
まもなく廊下は静かになった。銃を持った職員たちが、ぞろぞろと外へ向かう。廊下を覗くと、大量のロボットが回線を丸出しにして倒れているのが見えた。
その光景が恐ろしくて、足がすくむ。もし人だったらと考えると、震えが止まらなかった。早く来いと諭され廊下に出ると、遠くで倒れているロボットの、レンズのような大きな目が光った。彼らは倒れる逆工程を再生するように再び直立し、手に固定された小銃を構える。
「こいつら、まだ動く——」
銃声が鳴って、すぐさま共鳴した。また撃ち合いがはじまったのだ。しかし今度はわけが違う。こちらの一方的な死のみが広がっていく。ロボットには破壊こそあれど、死はない。
今ほど自分が憎いと思ったことはない。私は武器庫に戻り、座りこんだ。ロボットの規則的な足音が大きくなっていくにつれ、頭の中を色々の人が掠めていくのを感じた。
早くに亡くなった父、あの地に残った母、地元の友人、優しい基地の職員、雄二、そして、おばあちゃん。
そうだ、おばあちゃんは無事なのか。まだチョコを渡せていないし、謝りたいこと、感謝したいことが山ほどある。どれもここに座っているだけでは叶わないものだ。しかし、関節に恐怖という留め具がついてしまった今、私は武器庫で死を待つことしかできないでいる。
神様に頼んでみよう、そう思い天を仰ぐと、廊下からこちらを見つめる、半分頭が弾けとんだロボットと目があった。
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