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雄二は彼らに見向きもせず、ドアノブを捻る力もない彼らを救ったつもりなのか、ドローンの小銃で避難口を破壊した。
もう何を口にしても綺麗事になるから、私は黙った。暗い森に出ても決して振り返ることなく、ただ街の避難所の方角だけを見た。
五分ほどで商店街近くの地下避難所に着き、私たちは入口に降りた。幸い攻撃を受けたのは基地だけで、避難は円滑に進んでいるようだ。
雄二はドローンから降り、そのまま魂が抜けたように倒れ込んでしまった。体を支えるのに十分な力が出ないのだ。
近くにいた人たちが担架を持ってきて、雄二は半開きの目で会釈をした。彼に付き添うためドローンを停止しようとすると、そこには見慣れたドリンクホルダーがついていた。
座布団が外されていて気づかなかった。これはおばあちゃんのドローンだ。避難口にいた職員は、ドローンの全壊を仄めかしていた。
もし格納庫で戦っているおばあちゃんが避難を必要としていたら。もし私が戻ることで救える命があったら。
私はドローンから不必要な部品を外し、跨った。幸運なことに燃料は十分すぎるほどだ。
雄二は避難所に入る直前、こちらを向いて何かをいおうとした。しかし、それは言葉とならず、地下へと消えていった。
今の彼ができる精一杯の応援だ。私はそれを受け取り、全速力を出した。
森には火が広がっていた。特に格納庫付近の木々は部族の儀式のように高く火をあげ、離れていても強い熱を感じた。
自動照準をつけ、私と小銃のみを載せるドローンは炎を突っ切った。
格納庫では、ロボットだけが動いていた。腕だけを動かしたり、頭を地面に打ちつけたりしている。その横では何人もの知り合いが倒れ、オイルと血液の水たまりができていた。
「花子……」
おばあちゃんの口から聞いたこともないような、弱々しい声。おばあちゃんはロボットの首根っこを掴み、配線を引きちぎっていた。
「おばあちゃん! 迎えにきたよ!」
「早くここから逃げな。私はもうだめだ」
ブルドッグのような顔は優しい笑みに包まれた。おばあちゃんは唯一残った左手で、動かないロボットを攻撃している。
「おばあちゃん……いやだ、いやだよ……」
おばあちゃんの手は止まった。私は無駄だとわかっていても、おばあちゃんをドローンに乗せるため、体を持ち上げようとした。
私はおばあちゃんを迎えにきたのだ。一人で帰るつもりはない。
少女の私には力がない。老体を支えるのにも悪戦苦闘だ。
全身を使って、やっとおばあちゃんを愛用のドローンに乗せることができた。衝撃で少し重心がぶれたが、ドローンはすぐに立て直した。
おばあちゃんを抱くように乗って、急いで避難口へ向かうと、轟音と強すぎる光が何度も訪れた。
街の方角だ。真夜中の森は、昼のように明るい。
熱を帯びた風が両のピアスを揺らした。
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