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 ドローンの上では、座布団の四隅から生えた尻尾のような金色の飾りがふわふわと揺れ、北北西からの風を知らせている。  おばあちゃんは湯呑みのキャップをしっかりと閉め、ドローンの縁にカスタムされたドリンクホルダーにしまった。そうしないと地上に熱々のお茶がこぼれてしまう。 「潮風は嫌いだよ。死の匂いがする」  私は別の理由で潮風が嫌いだ。  十六歳の誕生日、彼氏に買ってもらったピアスが錆びてしまうことが怖かった。今は大人しく耳たぶにぶら下がっているが、ドローンのカラーと同じシルバーは、こうしている間にも傷んでしまうかもしれない。 「もう戻る。基地への報告を忘れるんじゃないよ」  渋々、「はあい」と答えると、おばあちゃんはいつもより速度を上げた。  真下には平和な街が広がっていた。  交通量は少ないが、そのぶん小道を行ったり来たりする人々で活気があふれ、街は絶えず息をしているように見える。「沿岸部は安全だから」といって私を送りだした母は、死してなお娘を守ってみせたのだ。  母は、呼吸を止めた死地のどこかにいる。  あの忌々しい生まれ故郷のどこかにいる。  おばあちゃんがこの地に残ったのも、私が暮らしていた故郷の喧騒のせいだ。  どこも光で溢れていて、休息を決して許さず、道では止まれず、知らない連中から頭を覗かれ、老人を狂わせ、子供を飼い殺す地。  母はあの場所を都会と呼んだ。だから私も都会と呼んでいる。  都会ではたくさんの人が生きている。つまり、人を殺したい勢力にとっては、あまりにも都合がいい(まと)なのだ。  この国は大きい。しかし、ちっぽけな弱小国が捨て身でかかれば、都市の一つや二つは崩れてしまう。母と私が暮らしていた土地もその馬鹿らしい暴力の餌食となった。
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