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「なぁでもさ、せっかく適正のある仕事なのに、それをイヤダっていうヤツがいるんだってさ」
「えっ、なんでだ?」
「さぁね。好き嫌いの話らしいよ」
同僚は肩をすくめる。
「でも、嫌いだって仕事はできるよなぁ。だってお前も子どもは嫌いだろう」
「ああ、大っ嫌いだ」
俺は、車に乗せられてからずっと泣きわめいている赤ん坊を、眉をしかめて振り返る。
さっきからうるさくてかなわない。
俺はタオルを取り出すと、赤ん坊の顔にかけた。
タオルはしばらく赤ん坊の呼吸にあわせてペコペコ動いていたが、やがて静かになる。
「別に嫌いでも仕事は出来るだろう」
「そりゃそうだな」
同僚は言いながらヒョイッとハンドルを右にきった。
そのとき横断中だった人をはね飛ばしたが、こちらにはまったく衝撃を感じない。
さすが同僚は運転適正者だ。
同僚は、
「なぁ、さっきはねたあいつ、何の適正者だったのかな」
「さあね。でも道を歩く適正は持っていなかったんだろう」
俺はヒヒッと笑って、それからふと、街頭ビジョンに流れているニュースに目をやる。
ビジョンではニュースキャスターの適正者が早口でしゃべっていた。
「現在、寿命以外が理由での死亡者数が出生者数を超えております。この現象は父性及び母性、または情愛の適正者が人類から消えたことと関係しているのではないかと考えられております。皆さま、情愛の適正者を発掘し育成するために、今後ますます子作りに励んでいただき、政府にご協力くださいますようよろしくお願いいたします」
俺たちは『お迎え課』だ。
子どもが生まれたらすぐに迎えにいく。
だから皆、安心してどんどん産んでくれ。
――了――
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