赤い告白は仕組まれたあの場所に。物語の答えは5分後

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 美人でも可愛い訳でもないが、しっかり者の恵と暮らし始めて今年の秋で八年になる。恵は俺からプロポーズされる日が来ると信じ、倹約して結婚資金を貯めている。沢山のポイントカードに、こまめにポイントを貯めることも几帳面な恵の特技の一つだ。  恵と別れる気は無い。恵の作る料理は健康的で美味い。野菜中心で飽きの来ない薄味だ。  だが、たまには濃厚な肉料理が食いたくなる。淡白な恵という日常を俺は愛しているけれど、刺激の強い非日常をつまみ食いしたくなるのはきっと男のサガだろう。 「玲二。もう帰るのぉ」 いつものBAR HERA。お約束の酩酊状態に陥った香奈はカウンターに突っ伏していた。 「飲みすぎだぞ」 「やだ〜」  伸ばした香奈の白い指先に触れたショットグラスが倒れてラムが天板を汚す。呼んだタクシーがそろそろ店の前に着く頃だろう。  カウンター席で会計を終え香奈の細い肩を抱く。絹肌から漂う芳香。夜の戯れの甘い夢を描いた次の瞬間...... ──ぞくりと背筋に戦慄が走った。振り返ると奥のテーブル席で派手なボブの女が睨んでいる。  何故此処にマリエが⁈  自分の邪な滾りは三人目の女とのバッティングで見事に消沈した。慌てて香奈の腕を掴み店を出る。名残惜しげな眼を向ける香奈。  悪いな。アイツ<マリエ>は面倒なんだ。  そんな本音を笑顔で覆い隠し香奈を乗せたタクシーを見送った。テールライトが視界から消えると苦しい言い訳を準備して店内に戻る。  だがマリエの姿は既に無かった。  翌日の朝、何気に開いた新聞の見出しに目を剥いた。 【自宅アパートの前で女性刺殺】  香奈の写真と名前が紙面の隅に載っている。犯人は不明。
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