14人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
✳︎✳︎✳︎
「なあ、なんか怒ってる?」
ハルユキがハンドルを回しながら、顔を覗き込んでくる、気配。私が頑なに真正面を見つめているもんだから、ハルユキがどんな表情を浮かべているかは、実際のところわからないのだけれど。
きっと、眉毛がくっつきそうなくらい、眉間に皺を寄せているのだと思う。
「別に」
「そう? なんか機嫌悪そうだから」
「そんなことない」
帰りの雪道。やっぱりハルユキはいつもより、急いでいる。ハンドルを操る手が、全然丁寧じゃない。雑の極み。
「晩メシ、一緒食うだろ?」
「え?」
「え、って。なに? なんか、用事あんの?」
(用事あんのは、あんたでしょーよ)
ひねた心は歪な形。私は今朝握ったおにぎりを握るように、歪な形を直そうと試みる。けれど、今朝は良かったんだよ。楽しみでわくわくしてたから。玉子焼きだって、ハルユキが好きな調味料の配合、ちゃんとメモ通りに作ったし。
(やっぱり急いでる。……夜、ユリと会うのかな)
さっきから右に左にと身体にGがかかってる。アクセルを踏む足に力が入っていて、そうなっていることに、私はとっくに気づいてしまっている。
「ねえ、雪道だからもうちょっとゆっくり……」
「なあ晩めし、食わねえの?」
「スピード速すぎるよ」
そして、一旦はアクセルを緩める。
「俺、今日さ……」
ハルユキが言いかけて、私は慌てて遮った。
「わかったわかった、用事があるってんでしょ。早く帰りたいんだったら、スピードでもなんでも出せばいいよ」
言い方。失敗。溢れ出る感情に蓋ができなかった。公園の飲み水の水道のように、ぶしゃあっと水がほとばしるようにでも。
「なんだよ、それ」
少し不満な口ぶり。
そんなハルユキの返しに、やはり私の感情は焼き切れた。
「どうせ事故して死んだって、別にそれでいいってことでしょ」
ハルユキが、急にブレーキの方へと足を踏みかえた。
ぐうんっと前のめり。
路肩にスペースを見つけて、車を停車させたのだ。それからは、ゆっくりと停まる。
沈黙が、空間を埋めた。
ハザードの、カッカッカッという音が、このまま永遠に響いていくような気がして、背中にゾッと寒気が走る。
最初のコメントを投稿しよう!