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そして、ザザザー‼︎
「え、え、うわ、うわああ」
目の前の景色が横へと流れていく。
「ハルユキっ」
私は両手を伸ばし、左手はドアの手すりに、そして右手は宙を掴んで、そして。
「わわわわあああ」
ハルユキの絶叫。
もちろん、横にスライドしていく目の前の景色で、車が滑っていることはわかっている。
ハルユキがギュッと握ったハンドルを、左右に細かく切っている。
一瞬、ブオンって音がしたのは、ブレーキを踏もうとしてアクセル踏んだ音なんだと思う。けれど、ブレーキなんて、踏んじゃだめっっ。
そう言いたかったのに、「やだっやだっ、うそっっ」としか声に出なかった。
今通ったばかりで、本来なら見えないはずの橋の欄干が視界に入ると、さあっと顔だけじゃなく、身体も青く、色と熱を失っていく。
ぞっと、背中に悪寒が走った。「うそっ、やだやだっ」
全身が総毛立つ瞬間。
そして更に、ザリザリザリザリとかき氷機で氷をかくような音。
ふわっと宙に投げ出されたかのような浮遊感。
視界は、道、橋、欄干、川、そして道、横断歩道、信号と、スローモーションで流れていった。車が滑るようにして、一回転していくのが、視界に入ってくる景色でわかる。
私は、ああ死ぬかも、とかなんとか思っていたんだと思う。けれど。
「ナツナっ、掴まれっっ」
宙を彷徨っていた私の右手は、ハルユキの左手にぐっと力強く掴まれて。
そして、視界に真っ白な壁。
迫ってくる。
白い壁が‼︎
思った瞬間、ドンっと衝撃があった。
その衝撃で、前へとつんのめる。身体を斜めに走っているシートベルトに圧。
次の瞬間には、顔を殴られたような、第二の衝撃。
ボスンと顔を覆われて、とっさに目を瞑る。
「ぶっっ」
そして、私は意識を失った。
✳︎✳︎✳︎
と、思っていたら、これがまた全然失ってなかったわ、意識っ‼︎
エアバックに突っ込んでいた顔を上げて隣を見る。と、隣から同じようにエアバックに突っ込んでいた顔を上げて、ハルユキが「ナツナっ」と私の名を呼んだ。
その顔。見たこともないような、必死な顔。
「な、ナツナっ、大丈夫か? ケガは? ケガはないかっっ?」
私は、私の全髪の毛がばさあっと前方向に垂れているのを感じながら、なんとか声を出して言った。
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