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お互いに涙を拭きながら、顔を見る。
ハルユキの腫れ上がった瞼を見ても、私は心底、良かったと思った。
こんな時になんだけど、好きなんだ、ハルユキが。
物心ついた頃からもうずっとずっと。
ハルユキの顔が近づいてくる。どちらからともなく、ちゅっと音を立てて、唇にキスをした。
「ナツナ、ナツナ」
私の名前を呟きながら、ハルユキは両手で私の頬を包み込む。
そして。
「ナツナ、今から大事なことを言うから聞いて欲しい」
んえ? 私は鼻水をすすりながら、ハルユキの次の言葉を待った。
ハルユキの手は温かいなあと、その体温を頬で感じていると。
「ナツナ、いいか。よく聞いて。俺と…… 俺と、結婚してください」
え。
え。
え?
「え、なに言って、」
頭真っ白でなに言ってんのこんな時に、と言おうとする唇に、ちゅっとキスをしてくる。
「ちょ、え、え? ちょ、と、ま、って、」
そして、私の顔を解放すると、すぐにごそごそと上着のポケットから、なにかを取り出した。
これは……まさか。
それはブランドのロゴが入った、小さな小箱。
それをパカッと開けて。
「はい、これ。サイズはいいと思うんだけど、ほら、左手っ‼︎ 出してみ」
私が、唖然としながら左手をそろっと持ち上げると、がっと掴んで。
左の薬指にはめた。
はめた。
はめた?
なにを?
ゆびわーーーーー‼︎
「なになになになにこれなにこれなに、」
「結婚してください‼︎」
なんで今ーーーー⁇
「いやこれ、吊り橋効果ってやつだな……って、そうじゃねえ。ナツナ、早くっ、うんって言え‼︎」
「え、え、え、」
「ナツナ‼︎」
「あーはいはいはいはい」
「よしっっ‼︎」
小さくガッツポーズ。うわ、かっこい。
すると、ハルユキはがばっと立ち上がり、雪山に頭から突っ込んだ車の後ろへと回り、トランクをがっと盛大に開けた。
そして。
「ナツナ、これ」
抱えているのは、真っ赤なバラの花束。それを座り込んだ私の目の前に差し出しながら、ハルユキもしゃがみ込んだ。
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