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なぜかカタコトになったハルユキの、ハンドルを握る手に力が込められた。アクセルをふかすエンジン音が、急にうなりをあげ始めた。
「いやいや、雪道だから」
危ないよ、声をかけたがどうやらもうハルユキの耳には入らない、らしい。
「ねえ、宝探しなんてキッズ向けのイベントでしょ。私たち、スノボしにいくんだから、そんなの参加しなくても別にいいって」
必死こいて話しかける。こんなところで死にたくない。
ガガガッと車のタイヤが凍りかけている雪道を勢いよく転がっていく。
一瞬‼︎
ザリザリッと音がして、背筋に緊張が走る。
「ちょっと危ないっ‼︎ なんでそんな死に急ぐの? イヤだよ私、もっとこの世で遊びたい‼︎ せっかく念願のT大生になれたんだから‼︎ 死にたくないから‼︎」
「大丈夫だって‼︎ 俺のドライビングテクで……」
「なに言ってんのよっ。このペーパードライバーがっ」
そんなやりとりをしていると。目の前に橋が見えてきた。
橋はヤバイ。橋はスベル。
事故を起こしやすい雪道スベル現象において、『橋』という建造物は堂々のランキング一位を獲得しているのだ。知ってんのかーこらー⁇
「ハルユキぃぃ、マジでこのスピード、死ぬからああぁあ。お願いいい、お願いだからユックリ行ってえぇぇええ」
私の、今にもおぶえええぇぇと吐き戻しそうな、必死な懇願が功を奏したのか、ハルユキもこのままではヤバイ死ぬと思ったのか、橋の手前で少しだけスピードを落とし。
難なく、橋を通り過ぎることができた。
(……あ、焦ったあぁ)
これは私の心のうち。ほーっと心からの安堵の息を吐く。
ドキドキが止まらない私の心臓を、どうにか落ち着かせながら、私はハルユキを不信感丸出しの目で、睨みつけた。
「ごめん」
そんな私の鬼の形相を見て、ふぇっと思ったのか、ハルユキは神妙な面持ちで謝ってきた。
ならよし。許さんでもない。
今まで、特になんの苦労も、山あり谷ありも感じずにここまで生きてこられたのは、このハルユキのおかげと言っても過言ではないのだけどもな。
うんまあ、許すぞよ。
けれど、おかしい。
ハルユキの判断力はまさに神。しかも慎重派。石橋をコツコツと叩きながら、絶妙なタイミングでヒラメイタっ今だっっと叫びながら、橋を渡り終える男。
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