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私がラテと言うと、手を上げて自販機へと向かう。スタスタと、少し頭を振りながら、歩いていく姿。その背中では程よい筋肉がしなやかに動いている。顔面はギリジャニーズだけど、サイフの中身はひじょーにショボイ。だから誕プレなんかはいつも手作りのものだ。例えば、手作りミサンガとか肩タタキ券とか。優しいんだよ、モテないはずがない。
(こんな私でいいんかなあ)
心で呟くこと、100万回。
はああっと溜め息と頬づえをつきながら、自販機でカップコーヒーを買うハルユキの、その後ろ姿を見ていた。
✳︎✳︎✳︎
昼ごはんを食べた後、二時間ほど滑ってから、リフト乗り場でハルユキが声を掛けてきた。
「ナツナ、もう帰るぞ」
まだたくさんのスキー客はいるし、日は高い。
「え、まだいいじゃん?」
私がリフトへと行こうとすると、ハルユキが腕を引っ張った。
「今日はもう帰る」
いつもなら夕方まで滑り倒すのに、と不服を口にしても、ハルユキは頑として譲らない。帰るの一点張りだ。
モヤモヤが一気に膨れ上がった。
(なんか様子がおかしいなあ)
思いを胸に押し込める。
仕方なく、駐車場へと急ぐハルユキの後を、カルガモのようにヒョコヒョコついていき、車の後ろに回って抱えていたボードを置こうとした時。
「ボード俺がしまうから」
運転席に身体の半身を突っ込んで、車のエンジンをかけていたハルユキが、叫ぶように言ってくる。
「トランクに入れりゃいいんでしょー」
私は答えながら、トランクのカギに手を伸ばした。
そこで。
「ナツナっ、俺がしまうって言ってるだろっ」
伸ばした手が、ビクッと止まった。その拍子に顔を上げると、運転席から血相を変えてハルユキが走って回ってくるもんだから、私はその迫力に負けて思わず後ずさりをしてしまい、地面に置いたボードに足を取られてしまった。
「わっ」
ぐらっと身体が後ろへと倒れる。
「ナツナっ」
ハルユキが手を伸ばしてくる姿がスローモーションのように見えて。
ぐいっと抱きしめられた。
「あっ……ぶねえ……」
ハルユキの運動神経の良さで、私は後ろへとひっくり返ることもなく、Go to Heaven でもなく。
「ご、ごめん、助かった」
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