吊り橋効果ってホントです?

9/17
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
私が抱きついていたハルユキの背中から手を離すと、ハルユキが慌てたように私から手を離した。 「気をつけろよな。そんで、ボードは俺がしまうから。取り敢えずブーツを脱げ」 「え、あ、うん」 言われた通りブーツを脱ぐと、すでに私の靴がそこに準備してある。そして、そのまま車内へと連行され、ウェアを脱ぐように指示された。後ろの座席で着替えている間に、ハルユキが荷物の全部をトランクに押し込んでいる。 着替えが終わり助手席に乗り込んで座ると、今度はハルユキが後部座席に移り、無言で着替え始めた。 なんなんだ、この違和感は。 今日のハルユキはどこかおかしい。 いつもなら、あんな風に怒鳴ったりしないし(いや実際怒鳴ってはいないかもしれないが普段は温厚なのでちょっとそう見える)、そう、いつもなら今回みたく後片付けは全て任せろ、みたいな強引さも奇妙さもないのだから、こんな風に違和感を覚えるのも、仕方がないだろう。 (なんだろう) けれど、その原因はすぐにわかった。 ハルユキが後ろでなかなか脱げないスパッツと格闘している間、運転席にうっちゃってあったスマホが、何度も何度も、ム、ム、ム、と着歴を表示しているからだ。 (あ、ユリ、……からだ) スマホの画面に浮かぶ、『ユリ』の文字。着信音は消してあるのに、着歴はポップアップ表示って。 (詰めが甘いなあ) 私の胸が途端に、ぐううんっと雪が降り出す前のスキー場の空のように曇っていく。 私はスマホの画面から目を離して、フロントガラス越しに外を見た。車内の空気が完全に暖かくなったのか、フロントガラスの縁から白いもわもわが、真ん中へと向かって、じわりじわりと侵食を始めた。それは少しずつ白く白く曇っていって、とうとう私の視界を遮った。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!