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雨が降る夜に、必ず見る夢がある。
水玉模様の傘をさした少女が、我が家の呼び鈴を鳴らすのだ。
かつて少女は幼女だったが、今や妙齢の女性の姿に近づいた。
ある雨の日、隣人の庭の欅にサルノコシカケを見つけた。確かに猿も十分座れるような、大層立派なものだ。
回覧板を回す際に、世間話がてらふれてみた。
「成長するのを、毎日楽しみにしているんですよ」
怪訝そうな顔をした隣人は庭の樹を見るなり、慌てた様子で電話をかけはじめてしまった。サルノコシカケは食べられるのか。そんな疑問は、聞けずじまいだ。
数日後、隣人が菓子折りを持って我が家にやってきた。
ここ数日なにやら騒々しかったが、あの欅を切り倒してしまったらしい。中身がすっかり傷んでいたのだそうだ。
発見がもう少し遅ければ、我が家に倒れていた可能性もあったらしい。
その日以来、いかに雨が降っても、少女は夢に出てこない。
隣家の庭には、切り株だけがひっそり残されている。
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