14人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ
5 祭りと花火
「ちあき、次はあれ食べよう!」
「ちょっと! 食べすぎだって!」
片手にクレープを持ったままの沙月を、ちあきは呆れた様子で窘める。
八月も折り返し地点に差し掛かった夕方。二人は近所の盆祭りに来ていた。町の小さな祭りだが、神社周辺の商店街が全面歩行者天国になり、たくさんの屋台が並んで賑やかだ。くじ引きや射的、アクセサリー屋などもあるのに、沙月ときたら食い気ばかり。至る所から漂う美味しそうな匂いを辿って、祭り会場を練り歩いている。
「全くもう……」
宙は都合がつかず来られなかったため、二倍の量のお守りをしているような気分だ。
祭りで気分が高揚するのも頷けるが、少しは落ち着いてくれないだろうか。既に疲れ果てていたちあきは、その場で大袈裟に肩を落とした。慣れない浴衣姿ということもあって、容易に走ることも出来ない。
「お待たせーっ!」
沙月は人目を気にせず、豪快な裾捌きでちあきのもとまで戻って来た。目を離している隙に、また何かを買ってきたようである。
「それ何?」
「フランクフルト! 甘いものの次はしょっぱいものでしょ!」
「はいはい……」
一体その細身の何処にそんな大量の食べ物が入るのだろうか。長年付き合っていても、未だに解明しない謎である。
「宙も来られたら良かったのに」
「そうだね。でも部活があるんだし仕方ないよ」
「まあね」
この前は運よく予定があったため海に行けたが、運動部は基本的に毎日部活がある。それはサッカー部も例外ではない。来る日も来る日も、朝から晩まで練習に励んでいることだろう。
気が付けば、沙月はクレープもフランクフルトも綺麗に平らげていた。
「相変わらずの早食いね」
「よく噛んでるから大丈夫だよ!」
沙月は得意げに笑う。彼女の食べっぷりは、見ていて気持ちが良いくらいだ。
「んー、でもさすがに苦しくなってきたな。腹ごなしにヨーヨー釣りやろ! そんで最後にから揚げ食べたい!」
「まだ食べるの!?」
軽い足取りで目的の屋台に向かう沙月を、ちあきは信じられない気持ちで追いかけた。
「いやー、食べた食べた!」
「むしろ食べすぎ」
結局、沙月はから揚げの後にデザートと称してじゃがバターを食べていた。デザートと言われると些か疑問が残るが、あの大口で食べられるとデザートに見えてしまうから不思議である。
「育ち盛りだからね。私からしたら、ちあきが少食すぎるんだよ」
そんな話をしながら会場を歩いていると、沙月は道の真ん中で急に足を止めた。
「どうしたの?」
「いや、あの人どこかで見たことがある気がするなって」
沙月が示す先に視線を走らせる。一瞬ただの暗闇を指差したかと思われたが、そこには紛れもなく人間が、それも全身黒服の男がいた。
「何でこんな所に……?」
その呟きは周りの喧騒に掻き消され、沙月の耳まで届かなかったらしい。彼女はしばらく唸った後、スッキリした様子で顔を跳ね上げた。
「思い出した! 海でちあきを助けてくれた人だよ!」
「えっ、嘘!」
思いもよらない言葉に、ちあきは珍しく大声を上げた。
「ほんとだって! スター張りのイケメンだから間違えるはずないよ!」
沙月はいつになく強気で断定した。確かに彼女の記憶力は目を見張るものがあるし、嘘を言っている訳では無いのだろう。しかし、呼んでもいないのに自分を助ける理由がわからない。ちあきは再度、彼に疑いの眼差しを向けた。
響介は露店裏の歩道を歩いていた。露店のテントに隠れてはっきりとは見えないが、女と連れ立っていることがわかる。女はかなりの美人でスタイルも良い。タイトで面積の少ない服を着ており、その豊満な体つきに周りの男は軒並み釘付けだった。彼らの気持ちも理解出来る。ただ、響介の腕に胸を当てるようにして抱きつく姿は、あまり好ましいと思えなかった。
「わーっ、さすがイケメン。モテるねぇ!」
沙月の言葉に、ちあきのこめかみがぴくりと動く。あの男は恋人というものがありながら、他の女の血を貰っていたと言うのか。血を貰うだけならまだしも、他の女の身体を担ぎ上げたり、肌に触れたりするのは如何なものだろうか。
助けられているのは事実だが、それとこれとは別問題である。不誠実なことが大嫌いなちあきは、言い表せないほどの怒りを覚えた。握り締めた拳がわなわなと震え、今にも爆発しそうである。そんな中、事情を知らない沙月は呑気に呟いた。
「せっかく会えたけど、あれじゃあお礼は言えないわね」
「そうね!」
語気を強めて言うと、ちあきは反対方向に向かって歩き出した。
「ちあき、どこに行くの!」
「ごみを捨てて来るだけ!」
ちあきは手に持っていたジュースの空きカップを握り潰した。尖ったプラスチックが手のひらに刺さり、少しだけ痛い。それがまた怒りを増幅させ、ちあきの足取りは乱暴になっていった。
「もう、一体何だってのよ」
突然機嫌が悪くなったちあきを見て、沙月は戸惑いを露わにしながら後を追う。
「あ、そうだ。今年は花火見て帰る?」
沙月の問いに、ちあきは少し不貞腐れたままで口を開く。
「私の時間は大丈夫だけど、沙月は?」
いつも通りの応答に、自分に怒っている訳ではないという事が分かったようだ。沙月の表情は安心したものに戻った。
「私は大丈夫! だから見て帰ろ!」
「わかった」
「じゃ、もう移動しようか。私トイレに行って来るから、先に行ってていいよ!」
沙月は落ち着きなく告げると、速足で来た方向の人ごみに消えて行った。
その後ろ姿を見送りながら、ちあきはふと冷静になる。話を知らない沙月に悪態をつくのは単なる八つ当たりだ。彼女が戻って来るまでに頭を冷やしておこう。ちあきは長い溜息を吐くと、毎年一緒に花火を見ている丘の上へと向かった。
その丘は神社の裏手にあり、祭り会場からは少し離れた場所に存在している。絶景スポットではあるのだが、有りがちな幽霊話が流れており誰も寄り付かない悲しい場所だ。
しかし実際の所、幽霊に出くわしたことなど一度もない。幼い頃から幾度となく訪れている三人は、それが下らない噂話だと知っているので、つゆほども気にせずに遊んでいた。そんな経緯から、この丘は専ら三人だけの穴場と化している。
ちあきは、ここに初めて訪れた時のことを思い出しながら歩いた。沙月を先頭におっかなびっくり進んだ道も、今見れば何という事はない。街灯は少なく薄暗いが、なだらかな傾斜の道を十分も行けば頂上に着くことが出来る。
彼女が普段より小股でせかせか歩いていると、ふいに小さな泣き声が耳に入った。
「……子ども?」
あどけない小さな声は、道の脇にある森の方から聞こえてくる。ふざけて立ち入り、迷子にでもなってしまったのだろうか。
ちあきは月明りを頼りに、森の中へ足を踏み入れた。辺りは泣き声以外に、草むらを進む小さな足音と虫の音しか聞こえない。おおよその検討をつけて歩いていると、頼りなさげな声は次第にはっきりと聞こえるようになり、すぐに子どもの姿を発見すること出来た。十歳前後と言ったところだろうか。ちあきよりわずかに小さいくらいの背格好をした少年は、たった一人で森の片隅にうずくまっていた。
「あの、どうかしたの?」
ちあきが声を掛けると、少年はゆっくりと顔を上げた。泣きはらした真っ赤な目は、彼女のことをおっかなびっくりした様子で見つめていた。
「友だちと遊んでたら、置いて行かれちゃったの……」
少年はしゃくり上げながら一生懸命説明を始めた。頑張って帰ろうと森を彷徨っていたものの、日が暮れてから怖くて動けなくなってしまったという。
「もう大丈夫だよ。私と一緒に町の方に戻ろう?」
そう言うと、少年は安心した様子を見せたが、すぐにまた泣き出してしまった。
「お腹が空いて、動けないよぉ……」
「えっ、ごめんね。私何も持ってないの」
自分の体格で、彼をおんぶして丘を下りることが出来るだろうか。
どうすればいいか考えを巡らせていると、少年は急に彼女の浴衣の裾を引っ張った。
「ここにあるよ。お姉さんの中に、たくさんね」
少年の口から、鋭い八重歯が覗く。
「きゃあ!」
事態を把握したものの、時すでに遅し。彼女は少年の姿をした吸血鬼に飛びかかられ、地面に押し倒されてしまった。その姿は徐々に少年から青年へと変わっていく。
「ふふっ、こんな簡単な手に引っかかるなんてな」
両手で首を絞めてくる吸血鬼に、ちあきの胸は激しく警鐘を鳴らした。このままでは殺されてしまう。度重なる恐怖に震えながら、彼女は弱々しい声を絞り出した。
「響…介…っ!」
その途端、ちあきたちを取り囲むように突風が渦巻く。
「何っ……!」
砂埃が入ったのか、吸血鬼が煩わしそうに目を瞑った。ちあきも反射で同じ行動を取る。突如暴れ狂う風の中を衝撃音が走り抜け、苦しさから解放された。風が止み目を開けた時、ちあきは見知った男の腕の中に収まっていた。
「響介……!」
自分の肩を力強く抱く彼に、ちあきは安心した表情を見せる。
「お前、捕まるの得意だな」
せっかく見直した所だったのに台無しだ。ちあきがイラっとした所で、吸血鬼が悔しそうに叫びを上げた。
「良い所で……っ! お前、一体何者だ!」
離れた所に倒れていた吸血鬼が、頬を押さえながら立ち上がった。睨みつけてくる彼に対し、響介は不敵に笑う。ちらりと覗く八重歯を見て、吸血鬼は「なるほど」と品定めをするように目を細めた。
「同族か。でも他人の物を横取りするのは許せねえな。さあ、そいつをこっちに寄越せ」
吸血鬼が片手を差し出してくる。しかし―――
「嫌だと言ったら?」
彼はそんなことに大人しく従う玉ではない。その無遠慮な答えは吸血鬼を困惑させた。吸血鬼が硬直している間に、響介はちあきを下がらせてその懐に飛び込んでいく。彼の重い拳は、吸血鬼の鳩尾に命中した。
「ぐっ……!」
くぐもった声を上げた吸血鬼の身体は、気流を乱しながら勢い良く後方に吹き飛んでいく。そのまま転ぶかに思われたが、吸血鬼は地面に食い込ませた足でスピードを往なし、何とか押し止まった。
「心配しなくても、手前の取り分も残しといてやるよ」
何を勘違いしたのだろうか。吸血鬼は苦しそうにうずくまりながらも、未だ余裕綽々の笑みを浮かべている。
「それを決めるのはお前じゃない」
ふらふらと立ち上がった吸血鬼に、響介は鋭い眼差しを向ける。一瞬考える素振りを見せた後、吸血鬼は挑発的な笑みを浮かべた。
「あぁ、なるほど。お前があの有名な同族殺しか」
「人聞きが悪いな。俺は誰も殺してなどいない」
響介は眉間の皺を深め、非常に不服そうな表情を見せる。
「意味は変わんねえよ。お前の存在のせいで、俺たち一族は崩壊したんだから」
吸血鬼が地面を蹴り上げて、響介に詰め寄った。懐から取り出したナイフで太腿を切りつけられ、響介は僅かに苦悶の表情を浮かべる。しかし彼は、切られた方の右足で臆せず相手の顔に蹴りを入れた。そして、反動で浮き上がった身体をくるりと回転させてその場に着地する。吸血鬼の身体は地面を転がると、大木にぶち当たって動きを止めた。
「大人しく引き下がるなら殺さない。今すぐにここから立ち去れ」
響介の言葉を聞きながら、吸血鬼は忙しなく肩を上下させ、傷口から滴る血を拭う。暗がりでわかりづらいが、その瞳は業火のような激しい屈辱に塗れていた。
「ふっ、止めだ止めだ。面白くねえ」
嘲笑を溢した吸血鬼は、どうにかと言った様子で立ち上がると、誰から見ても明らかな虚勢を張って見せた。
「気を付けるんだな。そいつの噂はもう一族に広まってるぜ。また近いうちに他の奴らが来るだろうよ」
そう言い残すと、吸血鬼は身を翻して夜の闇の中に消えて行った。
「大丈夫!?」
緊迫した空気が無くなったのを感じた瞬間、ちあきは慌てて響介に駆け寄った。
「このくらい何ともない」
彼は不機嫌そうに言うが、こちらは気が気じゃない。彼の傷を押さえようと、ちあきはハンカチを取り出した。しかし、先ほど出来たはずの傷は何処にも見当たらない。
「どういうこと……?」
当惑して固まった手を、響介が乱雑に掴んだ。思わず身がびくりと震える。響介は酷く顔をしかめたまま、何処か呆れた様子で彼女の手を解放した。
「手当てはいらない。それより何故一人でいるんだ。狙われていると知っているだろう」
「……ごめんなさい」
自分でも迂闊だったとは思う。しかし、無意識のうちに足が動いていたのだ。
ちあきはいじけた様子で立ち上がると、気持ちを抑え込むようにハンカチを強く握りしめた。
「あ、そうだ!」
大事なことを思い出し、ちあきはパッと顔を上げる。
「この前、海で溺れたところを助けてくれたんだよね?」
「それが何だ」
苛々とした様子で腕を組んだ響介は、ふいっと顔を背けてしまう。その態度に胸がちくりと痛んだが、この際言いたいことが伝わればそれでいい。
「あの、本当にありがとう。私あの時死んじゃうんじゃないかって、思って……」
開いた口は何故か徐々に震えていく。ちあきの声色が変わったことで、響介は横目で彼女の顔を覗き見た。
「今も、あんなことになるなんて思わなくて……」
頬を冷たいものが伝う。彼女自身も気づかぬうちに、目から大量の涙が溢れ出ていた。戸惑いながら浴衣の袖で顔を拭う。どうも力を入れすぎたらしい。擦ったところに涙が染みて、ひりひりとした痛みが襲った。
「でも、自業自得だよね! だから、その……っ!」
とにかく何かを言わなければと、ちあきは一生懸命言葉を紡ぐ。響介の大きな溜息にさらに焦りが増し、ひゅんと心臓が縮む。しかし次の瞬間、手首を引っ張られた彼女は、彼の胸の中にふわりと収まっていた。一瞬何が起こったかわからず、ちあきは呆然とする。
「次からは気を付けろ」
無骨な手が、ちあきの頭を撫でている。まるで壊れ物に触れるように、そっと優しく。
「……うん」
触れた肌から伝わる温もりに、ちあきは目を細めた。強ばっていた心が、ゆっくりと溶けていくのが分かる。
いつもは憎まれ口ばかり叩く癖に。
安心するとともに、この熱を受け入れたくないという反抗的な気持ちが芽生える。それでも尚、この温かさを拒むことは出来なかった。
数秒後。どちらからともなく身を離すと、響介は無愛想な顔で口を開いた。
「それで、何処に行くつもりだったんだ」
「え?」
「こんな所に用なんてないだろ」
何故そんなことを聞くのだろう。ちあきは首を傾げながら答えた。
「丘の上に行こうとしてたの」
「わかった」
淡々とした返事の後、響介は丘に続く道に向かって歩き始めた。
「あの」
「送って行く。また何処かで狙われたら意味が無いからな」
ちあきは呆気に取られた。まさか、この男からそんな言葉が出るなんて。
「あっ、そう言えばお礼は?」
彼女の言葉に、響介の動きはぴたりと止まる。少しの沈黙の後、彼は再び口を開いた。
「また今度でいい」
どういう風の吹きまわしだろう。ちあきは混乱しながら響介の後を追った。
何も喋らず歩いているうちに先ほどの出来事が整理され、脳裏に敵の言葉がよみがえる。彼のせいで同族の吸血鬼が死んだ。それは一体どういう意味なのだろう。
純粋な疑問から開いた口を、ちあきはすぐに閉ざした。無闇やたらと彼らの事情に首を突っ込むべきではない。彼の後ろ姿を見て、その考えはさらに強まる。いつもと変わらないしゃんとした背中には、何処と無く悲哀の色が滲んでいる気がした。まるで触れるなと言われているようで、ちあきは切なく感じて目を伏せた。
「あぁっ、ちあき! 何で先に行ってないのよ!」
丘の上に行くと、不満たらたらの様子で沙月が喚いた。他に人はいないため、彼女の大声は辺り一帯によく響いている。
「ごめん……」
「全くもう、ってあれ?」
ちあきの隣にいる響介を見ると、沙月は目を丸くした。
「海でちあきを助けてくれた人だ!」
不躾に響介を指さすと、ちあきに「何で何で?」と状況の説明を求めてくる。
「えっと、その、いろいろあって……」
「迷子になっていたのを助けただけだ」
上手く説明できないちあきに業を煮やしたのか、響介は遮るように言い放つ。
「やだ、十六にもなって迷子!? もう、本当にありがとうございました! 二度もお世話になっちゃってすみません。彼女さんと楽しんでいる所、お邪魔でしたよね!」
沙月の口調はまるで母親のようだ。へこへこと何度も頭を下げ、ちあきの代わりに謝っている様は若干わざとらしい。
「あれは恋人じゃない」
「え?」
「だから別に気を遣わなくていい」
「あっ、それは、えっと……」
思いもよらない返答に、沙月はどもってしまう。狼狽える彼女の横で、ちあきは静かに口を開いた。
「恋人じゃないのに、あんなにベタベタ触らせるの?」
「ちあき?」
俯いたまま震えている彼女を、沙月は不安そうに見つめる。
「どんな人でも抱きしめるの?」
刺々しいちあきの言い方に、響介は顔を歪めた。
「だったら何だ」
その開き直ったような態度に、ちあきは我慢の限界を迎えた。赤く泣き腫らした目で睨みつけ、躊躇せず彼の頬に平手を打ち付ける。鋭く乾いた音はスローモーションのように切り取られ、静まり返った空間に小さく反響した。
「ちょっと、ちあき!?」
突然のことに、沙月は戸惑いを隠せない様子で問いかける。しかし彼女の猛攻は止まらない。
「私は、そういう適当な人が大嫌いなの!」
そう言い捨てると、ちあきは一目散に下り坂に向かった。
「えっ!? ちょっと待ってよ!」
沙月にしてみれば、まるで訳が分からないだろう。二人の間で視線を彷徨わせた沙月は、悩んだ末に慌ててちあきを追いかけて行った。
丘の上を涼しい風が吹き抜け、草木がざあざあと音を立てる。その場に一人残された響介は、叩かれた頬にそっと触れた。痛みはさほど無い。それなのに自分を睨みつけるちあきの顔が頭から離れなかった。じりじりと胸を焦がす思いは、あの夜に感じた遣る瀬無さに似ている。
この気持ちはどうすれば収まる。どうすれば消えてくれる。
響介はその答えを求めるように、二人の去った後を呆然と見つめた。立ち尽くす彼の背後で、大きな花火が打ち上がった。
最初のコメントを投稿しよう!