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居酒屋にて
「あのクソジジイ! マジで有り得ねぇんだけど!」
道木は飲み干して空になったビールジョッキをテーブルに勢いよく叩きつけた。
「まぁまぁ、落ち着けよ」
「落ち着けるかよ。っていうか花元、お前はムカつかないわけ?」
「そりゃ腹は立つけど」
「だろ! そもそもの納期を提案してきたは向こうで、それを変更したいって言ってきたのも向こう! 追加料金がかかるのは当たり前! なのに『ケチだなぁ』とか『どうにかするのが君たちの仕事なんじゃないの』とかグチグチ言いやがって。あのクソハゲオヤジ」
「あそこの宇材部長は無茶を言うので有名だからな」
「おいおい、お前はあれを無茶で済ますのかよ」
道木はシシャモを手づかみで嚙みちぎると、正面に座る花元を睨みつけた。
「そんな顔するなよ。僕だって物申したいよ。でもあの会社とはこれからも付き合い続くわけだから、僕らみたいな平社員は諦めるしかないだろ」
「ったく、だから駄目なんだよ。ああもう、今日はとことん飲んでやる。すみませーん、これと同じやつ」
道木は近くにいた店員を捕まえ、「早くしてね」と一言添えてジョッキを押し付けた。
「あーあ、あいつはマジでくたばってくれないかな」
「それはちょっと言い過ぎじゃないか?」
「言うくらい別にいいだろう」
「お待たせしました! ハイボールです!」
先ほどの店員がジョッキを片手に再び戻ってきたが、道木がそれを見て両目を釣り上げた。
「はあ? 俺、さっきと同じのって頼んだはずだけど」
「え、あ、申し訳ありません!」
手元のオーダー表を確認した店員は慌てて頭を下げた。
「何をどう見たらビールとハイボールを間違えるわけ?」
「申し訳ございません! すぐにビールお持ちしますので!」
「あり得ないんだけど。普通間違える? 間違えないよね? 俺だったら間違えないけど?」
「本当に申し訳ございません」
平謝りの店員を花元は手で制し、「これは僕がいただくんで大丈夫です。ビールを一つお願いできますか」とハイボールを自分の元に引き寄せた。
「はい、ただいまっ」
逃げるように去っていった店員を見送り、道木は再び花元を睨んだ。
「おーおー、花元クンは人間が出来てるねぇ」
「別にそういうんじゃない」
「じゃあなにか? 俺が駄目人間ってことか?」
「……はあ」
「おい、なに溜息ついてるんだよ」
「道木、これやるよ」
花元はいくつか持っていた荷物の中から、一つの紙袋を道木に渡した。中には箱が入っている。
「何、これ」
「<憤怒の勇者>っていうロールプレイングゲームなんだけど、実はまだ一般発売されてないものなんだ」
「なんでそんなものをお前が持ってるんだよ」
「弟がここのゲーム会社で働いてるんだけど、テストプレイをする人を探してるんだって。でも、内容的にプレイヤーを選ぶ代物でなかなか条件の合う人がいないらしい。で、僕の知り合いにプレイできそうな人がいたらこれを渡してくれって頼まれたんだ」
「なんで俺なんだよ」
「んー、まぁ、プレイしたら分かるんじゃないか」
「お前はどんなゲームか知ってるのか?」
「少しだけ。さすがに詳しくは教えてもらえてないけど」
「ふーん。ゲームするくらいなら別にいいけど」
「よかった。あと悪いけど、ゲームに関する一切の内容を誰にも言わないでほしい。もちろんネットに感想とか動画を上げるのも禁止で」
「守秘義務ってやつか。いいぜ」
「ありがとう」
何故自分が選ばれたのか不思議に思いながらも、道木はそれを受け取った。
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