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ゲーム
自宅に戻って花元からもらった物を取り出す。箱の中には赤い塗装のゲーム機と充電用アダプターが入っていた。ゲーム機はスマートフォンと同じような長方形でサイズは一回りほど大きい。中央に液晶画面、その右側にAとBと印字されたボタンが二つ、左側には十字キーと小さな穴がある。上部の側面に電源ボタンとアダプターの挿入口があり、ゲームソフトが入れられそうな場所はない。説明書なども付いておらず、とりあえずアダプターで充電しながらゲーム機を起動することにした。
電源ボタンを押すと、画面の中央に<憤怒の勇者>と浮かび上がる。適当にボタンを押していると、蝶のような羽を生やした少女が現れた。
『初めまして。わたしの名前はイカルン。ジョウカン国に住む妖精です』
三つ編みにされたピンク色の髪が、羽と共にゆらゆらと揺れている。
『この国には、人間だけではなく、獣族やわたしのような妖精族など様々な種族がいます。私たちはお互いを認めて尊重し、支え合いながら暮らしていました。だけどある日、レッカーンという魔王が現れ、魔法で邪悪な感情を国中にばらまき、そのせいで国民はとても凶暴な性格になってしまいました。平和で友好的だったこの国も、今ではあちこちで戦争が起こっている状態。このままでは取り返しのつかないことになってしまいます』
イカルンは大きな目を潤ませ、ついにはポロポロと涙をこぼした。
『あなたはこの国の最後の希望。お願いです、レッカーンを倒しこの国に平和を取り戻してください』
Aボタンを押すと、画面に五十音表と共に『必ず本名を入力してください』と表示された。なぜ本名を指定されるのか不思議だったが、ゲーム内で名前を入れる時には昔から自分の名前を入れていたので、下の名前である<ユウト>と入力した。するとイカルンが『ユウト様! とても素敵なお名前ですね!』と褒めてくれたので、道木としては嫌な気はしなかった。
『ではユウト様、この国での戦い方を説明します。決定するときはAボタン、キャンセルをするときはBボタン、移動や選択肢を選択するときは十字キーを使ってください。では早速出発しましょう!』
「おいおい、いきなりかよ」
道木の抗議も虚しく、画面が切り替わる。勇者らしいキャラクターが一人、どこかの村にいる。とりあえず十字キーを動かしていると一人の村人と出会った。
『出会った人と話をしたい場合は近づいてAボタンを押してくださいね』
画面の左端にイカルンが出て来て説明してくれる。
「なるほど、これはチュートリアルか」
言われた通り村人と話をするが、特に変わったことは言われない。村の中を歩き回り村人全員と話し終わると、突然紫色をしたいかにもなキャラクターが出現し、戦闘画面に切り替わった。
『ユウト様、あいつはレッカーンの手下です。早速倒しましょう!』
「いや、そんなこと言われてもどうやって?」
『戦いが始まったらAボタンを押せば現在所持している武器が表示されます。その中から好きなものを一つ選んでください』
画面には<木の剣>しか表示されておらず、仕方なくそれを選ぶ。
『ここからが本番です。攻撃するときはAボタンを押しますが、同時にマイクに向かって叫んでください!』
「叫ぶ? どこに?」
『十字キーの横にマイクがあるでしょう? そこに向かって敵を威圧するようなことを言うんです!』
「マイク……あ、この穴か」
訳も分からずAボタンを押しながらマイクに向かって「コ、コノヤロー!」と叫ぶ。すると手下はあっけなく倒れた。
『流石ユウト様、素晴らしいです! その調子でどんどん敵を倒してください!』
「なんだ、このシステム」
昔はそれなりにゲームをしていたが、今時のものにはあまり触れていないので戸惑いが隠せない。しかし、それ以上に道木は興奮していた。自分の声を発することで、今までプレイしてきたどのゲームよりも敵を倒している感じが強いのだ。
「これ、面白いんじゃね?」
道木はゲーム機を握りしめ、前のめりになった。
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