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攻略のコツ
<憤怒の勇者>を手に入れてからというもの、道木は仕事を終えるとすぐに帰宅し、ほとんどの時間をゲームに費やしていた。
「オイ! クソ! 馬鹿野郎!……ったく、これも無理か」
現在地下洞窟を支配するボスに挑んで五回目。未だに倒せていない。
開始当初、操作できるキャラクターは勇者のみだったが、ストーリーが進むごとに仲間が増え、現在は魔法使いと賢者と武道家が仲間になっている。しかし、それに比例するようにボスも強くなり、最初の頃のようにすぐには倒せなくなっていた。
レベルを上げ、所持金を増やし、現時点で入手できる最強の武器を各キャラクターに装備させているが、思うようにいかない。
「ボスの名前ってウザウザンだっけ。なんだよ、ウザウザンって。ダセェ」
更なるレベル上げのため地下洞窟を徘徊する。フィールドにいる格下の敵であれば何も考えずに倒せるので、この時間を使って食事を終わらせてしまうのが最近の常だ。咀嚼の間に画面に向かって「どっか行け」や「雑魚が」と一言添えて攻撃すれば、ほぼ一ターンで終わらせることができる。
「そういえば、ウザウザンってなんか宇材部長と名前が似てるな……あー、今日の外回りのこと思い出しちまった。最悪」
コンビニ弁当を食べ終えると、突如湧いてきたストレスを発散させるためウザウザンの元へ戻った。
『レッカーン様の邪魔をする愚か者どもめ! どういうつもりでこのワタシのところへやって来たのだ』
「お前を倒すために決まってるだろ」
『このワタシがお前たちに倒されると? 間抜けなのは顔だけにしておけ、ファファファ』
ウザウザンの笑い声と共に戦闘が始まる。勇者と武道家が攻撃をしている間、魔法使いと賢者は防御と回復にまわす。最初は上手く攻防のバランスがとれていたが、時間が経つにつれてウザウザンからの攻撃パターンが増えていく。
「相変わらずムカつく野郎だな。よし、とりあえずここまで体力回復させて、と」
なんとか危機を乗り越えて、再び攻撃に転じる。
「オイ、クソ野郎。いつもいつもネチネチ嫌味ばっか言いやがってよぉ! そのハゲ頭の中は空っぽか? 俺よりも何年も長く生きてるくせにボキャブラリーが少なすぎるんだよ!」
言葉と共に攻撃をすると、今までよりも確実に効き目があった。
「口を開けば安くしろとか仕事が遅いとか好き勝手言いやがって! お前のワンパターンの言葉をその臭い口から聞かされるこっちの身にもなれ」
ウザウザンの攻撃パターンは防御のみに振られている。
「マジでお前単細胞なんじゃね? だったらアメーバの方が人の役に立ってるってもんだ! 分かったならとっとと失せろ!」
『ぐわあああああ!』
咆哮と共にウザウザンが砂のように消えていった。
「よし!」
今までは敵に向かって憎まれ口程度のことしか言わなかった。それで十分戦えていたからだ。しかしさっきは違う。ウザウザンに向けてというよりも、宇材部長に対して思っていることを、何も考えずそのまま言葉にした。その結果、ストレスもゲームのボスも綺麗に消え去った。
――これはもしかしたら考えている以上にこっちの感情を乗せた方がいいのかもしれない。
これ日を境に、ゲームの進行が滞ることはなくなった。
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