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序章
安永六年、巷で妖怪画集等が刊行されると、物の怪や不思議噺といった類のものが民衆の心をとらえ始めた。
それらに影響されてか、私は津々浦々で古くから伝わる伝承といった不思議噺を集めるために旅に出ていた。
とはいっても私が書いたものは、さほど評判にもならなかったが、趣味でもある旅をしながら各地で様々な不思議噺を聞けるのは、私の好奇心を満たすのに十分だった。
これまで耳にしてきた、いくつもの不思議噺。
その中で、今でも心に残っているのは「ウズメの木」と呼ばれる一本の巨木にまつわる噺だ。
最初こそ、よくある不思議の一つとして、それ以上でもそれ以下でもなかったこの噺は、後に私の脳裏から離れられない唯一の伝承となってしまうことを当時の私は知る由もなかった。
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