神隠し(1)

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 まさか、カヨを埋めようとしているのか?  いや、そもそもカヨは……?  ピクリとも動かないカヨに胸の鼓動が激しくなる中、菊次の一挙一動に俺は瞬きするのも忘れていた。  案の定、人一人が入れるほどの穴を掘った菊次は、そこへカヨを投げ入れて元通りに土をかぶせた。  そして、しばらくの間、ウズメの木を見上げると、そのまま山を下りていった。  草むらの陰にいた俺は、その目で見た現実に戸惑いを隠せずにいると、震える足でその場から一歩も動けずにいた。  菊次が……カヨを殺して埋めた!  今、この目で見たものは、つまりそういうことだ。  明日から菊次と顔を合わせた時、俺はどうすればいい?  妻を殺した男と、どう接すれば……?  いや、これは村の長に言うべきではないだろうか?  この小さな村で何か犯罪めいたものなど、これまでただの一度も無かった。  長に菊次がカヨを殺して埋めたと言っても、信じてもらえるだろうか?  証拠ならそこにある。  埋められたカヨの死体が、何よりの証拠だ。  そうだ、それ以外に方法は無い。  明日の朝早くに、長の元へ行こう。  そう心に決め、ここから立ち去ろうとした時、誰もいないはずのウズメの木の辺りから、何やら音が聞こえてきた。  ボコッ……ボコボコッ……。
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