神隠し(2)

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神隠し(2)

 土をえぐるような音に振り返ると、ウズメの木の周りの地面が小さく隆起していた。  何事かと息を潜めていると、その隆起した地面から一本の木の根が地上へと這い出てきた。 「…………っ!」  思わず声が出そうになったが、両手で口をふさいで必死に耐えた。  暗がりの中とはいえ、随分と長く外にいたせいですっかりと夜目にも慣れたその光景に、俺は自分の目を疑った。  地面から現れた一本の木の根は、菊次が埋めた場所を丁寧に撫でると、その先端を地面へ突き刺した。  目の前で木の根が勝手に動いているのを目の当たりにすると、これまで尊敬の念まで抱いていたウズメの木は、一転して恐怖以外の何物でもないことに、ガクガクと震える膝を無理矢理動かした。  一歩、また一歩と静かに後退りをすると、恐怖で背中が凍り付きながら木々の間を一気に駆け抜けた。  あれは、神が宿る木なんかではない。  あの木は……化け物だ。  その恐怖と山を一気に駆け下りてきたせいで、息も切れ切れだった。  結局、一睡もできないまま朝を迎えた俺は、さっそく長の元へ向かった。 「すいません、長に大事な話が!」  戸を開けるなり大声を張り上げると、ムスリとあからさまに不機嫌そうな長が出てきたが、それに構うことなく夕べ見た出来事のすべてを長に話した。  案の定、その話を鵜呑みにする長ではなかったが、証拠があると説得した俺は、長を連れて山へ向かった。 「こ、ここにカヨの死体があるんだ!」  俺は菊次がカヨを埋めた場所を掘り返したが、どこまで掘ってもカヨは現れなかった。 「そんな……そんなハズ……昨日、見たんだ! ここで菊次がカヨを埋めているのを!」  その叫びも(むな)しく、カヨの死体が出てこないのでは、長も呆れるしかない。 「茂吉、いいか? このことは黙っておいてやる。だが、もう二度とそんなでまかせを口にするな!」  長は(さげす)むように俺を睨み付けると、こんなくだらないことをしている暇があるのなら、しっかり働けと言い残し、一人先に山を下りていった。 「そんな……」  俺は泳ぐ視線の先を巨木へ向けた。
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