神隠し(2)

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 カヨの歩き方、その話し方、ちょっとした癖、その姿はまるでカヨそのもので、いったいどこが違うのかと訊かれたら、その答えが簡単に出ないほどの小さな違和感。  俺の目にはカヨの何かが違うように映っていただけでなく、それはフクや重松、平蔵など、一度姿を消した者全員に言えるもので、いつも喧嘩ばかりで仲の悪かった者達も今では普通に話をしている。  俺は誰かが話した言葉をすべて覚えているだけではなく、ちょっとした表情からその者が相手をどう見ているかが手に取るように分かる。  それは、日頃から家族や村人達から蔑まされていた俺が、その顔色から何を言わんとしているのか、自然と身に付いてしまったものだった。  死んだ者があの巨木の元で生まれ変わる……いや、生まれ変わった者は、もはや元の姿形をしているが、その実は全くの別物だと俺は考えた。  そもそも死んだ人が生まれ変わるなんて、実際にこの目で見たとしても、到底信じられるようなことではない。  ましてや、木から人が生まれ出てくるなんて……。  あの巨木は、この世に仇をなす恐ろしい存在だ。  この村はすでにその脅威に襲われているが、このままにしていてはもっと大変なことになってしまう。  そう考えると日が沈むと同時に俺は、再び山へ向かった。  目の前の巨木を睨み付け、俺は手にしていた斧を振り上げた。  しかし、振り上げた斧を持つ手はなぜか震え、その手に力を込めれば込めるほど、巨木を睨み付ければ睨み付けるほど、斧を振り下ろせずにいた。  目には見えないが、そこから何か恐ろしげなものが湧き出ている感覚に襲われていたからだ。  それは恐怖か?  畏怖(いふ)か?  風も吹いていない中、そんな俺をまるであざ笑うかのように木の葉が(ざわ)めきだすと、外はまだ昼間の熱気が冷めていないのに、身体は凍えるような寒さで震え、俺は思わずその場から逃げ出してしまった。  ウズメの木を切り倒そうとしたが、結局はできなかった。  アレは、人がどうこうできる代物ではない。  できるものなら、もう二度とあの巨木に関わりたくない。  そんな思いとともに、俺は一目散に山を駆け下りた。  カヨが村に戻ってから七日目、次に姿を消したのは長だった。
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