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その出来事を知った父は、激怒しながら長が戻ってきたら何と言い訳してよいものかと頭を悩ませている。
それ以来、家族は元より村の中でも俺はさらに孤立し、村の中でキヌと顔を合わせようものなら、かつて抱いていた俺への想いを塗り替えたかのように、怒りの眼差しで俺を無視するようになっていた。
長が村へ戻ってきたその七日後、キヌは姿を消した。
こうなると分かっていながらどうすることもできなかったと、俺は一人頭を抱えていた。
村へ戻ってきたキヌが俺に向ける眼差しには、かつて秘めていた想いの欠片すら宿ってはいなかった。
村人が姿を消し、戻ってきてはまた誰かが姿を消すといった出来事が点々と他の家族を襲っていくと、それは最後に俺の家族の元にやってきた。
最初にいなくなったのは父だった。
父が姿を消してから七日目、父は村に戻ってきた。
その父へ、どこで何をしていたのかと問い詰めても肝心の記憶はあやふやのようで、最後には単に山籠もりをしていたとだけ口にしていた。
その父の小指の先を見ると、他の者と同じように爪は無かった。
それ以外に以前とまったく変わらない様子の父だったが、その父を寝ずに俺は監視した。
次は母か、妹か……俺だ。
父は家族の誰かを深夜にひっそりと殺し、ウズメの木の元へ埋めるだろう。
家族が川の字に並んで寝静まっていた時、一番端の布団の中で俺は瞼を閉じずに一人起きていた。
すると、ムクリと誰かが布団を抜け出す気配を感じると、布団の中で隠し持っていた手斧を握る手に力を込めた。
起き上がったのは父だろう。
誰を殺そうとしている?
母か?
妹か?
……俺か?
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