神隠し(3)

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 最初に聞こえた声は妹だ。  それに答えたのが父で、次に口を開いたのは母の声だった。  妹と母は、なぜか父を「兄さん」と呼んでいた。 そして、父が口にした「母さん」は母のことではない。  いや、「母さん」と呼ばれた者がどこの誰なのか、俺は分かったような気がしていた。  そして俺を除く家族全員が、俺を殺す算段を話し合っているという現実に、俺は一人苦笑いをするしかなかった。  既に「人」である者が誰一人としていなくなったこの村を捨て、このままどこかよそへ行こうかとも思ったが、これまでろくに働きもしてこなかったせいで、辿り着いた先で生活できるとは到底思えない。  かといって、このままただ黙って殺されるのを待つつもりもない。  俺はある決意を胸に、家の戸を開けた。 「ただいま」 ◆ 「そ、それでどうなったんですか?」  私は無意識の内に両手を床に押し付け、身を乗り出すように茂吉の話へ耳を傾けていた。 「その後、どうしたかって?」  茂吉は静かに目を閉じると、薄っすらとその顔に笑みを浮かべた。 「……殺したさ」  耳を疑った私がポカンとしていると、茂吉は再び同じ言葉を口にした。 「妹を殺した後、父さんも母さんも……村の奴らも全員、俺が殺してやったよ」  その言葉に、私はふと両手を付いていた床を見下ろした。  床のあちこちにある黒い染みのようなものは私の手のすぐそばにもあり、私は思わずその手を床から離した。 「まさか……本当に? 茂吉さんが……殺したのですか?」  私は、おそるおそる床から視線を茂吉へ滑らせた。 「ああ。あの時の妹の顔は今でも忘れないよ」  茂吉はどこか遠くを見つめるような顔で、あの晩の出来事を語った。
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