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神隠し(4)
妹に殺されると思った時、妹が茂吉に向けていた顔は、まるでハエでも見るかのように冷たく蔑んだような目で、その瞬間、自分は殺される価値も無いのだと悟ったらしい。
それに加えてこの一連の出来事はすべて、あのウズメの木が家族を増やそうとしていたに違いないと茂吉は言った。
皆が口にしていた「母さん」は、あのウズメの木を指していた。
そう考えると、すべての辻褄が合ってくる。
兄さん、姉さんなどと呼んでいたのも、ウズメの木の子供となった者は、まさに血を分けた兄弟姉妹となり、家族として迎い入れられた順番でそう呼ばれていた。
これまで姿を消した村人の順番から考えると、その者から見て一番近しく、一番思いのある相手が次の犠牲者となっていたようだった。
自分を想っていてくれたはずのキヌが自分を選ばなかったのは、すでにその想いを断ち切ったからなのだろう、と茂吉は悲しげに言った。
蔑視の眼差しで見下ろす妹に、茂吉は布団の中で隠し持っていた手斧で、躊躇なくその首へ斬り付けた。
その後、布団で横になっていた父と母の首をはねると、外へ出て村中の家を片っ端から渡り歩き、村人達を一人残さず殺して回ったそうだ。
「ど、どうしてそんなことを?」
とても殺人を犯すようには見えない茂吉を前に、私の声は震えていた。
「え? どうしてかって? そりゃ、人間じゃないからさ」
茂吉は静かに笑みを零すと、さも当然のごとく言ってのけた。
妹の首を斬り付けた時、妹の身体から樹液が飛び散るのかと思ったが、それは暗闇の中でもはっきりと分かるほどに赤かったと、まるで他人事のように茂吉は付け加えた。
「茂吉さん、いくらなんでも家族までその手に掛けて……胸が痛みませんか?」
私の問いに茂吉は驚いていた。
「あいつらは家族の皮をかぶった何か、さ。家族でも何でもないよ」
その顔に、後悔の念は微塵も無さそうだ。
ただ、最初にいなくなった父、そして次にいなくなった母が自分を殺そうとしてくれるのを心のどこかで願っていたのかもしれないとボソリと呟いた。
それは両親が茂吉を殺そうとすること自体が、茂吉にとっては唯一の愛情を知る目安となったからだろう。
たとえ、それが人として許されない、歪んだ行為だったとしても。
茂吉が家族を救えなかったのは、おそらく自分にその愛情が向けられなかったという悲しみや虚しさ、そして自身への憤りによるものだったのかもしれない。
茂吉の寂しそうな瞳がそう思わせる中、茂吉はなおもその後に自分のしたことを話してくれた。
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