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村人達が二度と生き返らないよう、全員の首をはねて回った茂吉は、全員の死体を海へ流したようだった。
ただ、その中で家族を殺めた時より、キヌという娘を手に掛けた時が一番堪えたと茂吉は表情を曇らせたが、次の瞬間、その目をギラリと輝かせた。
「最後に一人だけ残った俺は、その後、どうしたと思う?」
村人達を一人残らず殺害し、その死体もすべて処分した後、最後に残った者の思いなど、私には到底考え付くはずもない。
「一度は死のうとも思ったさ。俺一人がここで生きていけるわけもないだろうし……」
こうしてたった一人とはいえ、現に茂吉は生き延びている。
一度は自ら命を断とうとしたが、断ち切れずに今に至っているのだろうか?
私の考えが伝わったのか、茂吉がこの日まで生きながらえてきたのは、村の中に備蓄されていた作物や、畑で勝手に成長していた野菜などで食い繋ぎ、それらが底をつくと腹が減るたびに魚を獲ったり、貝を拾ったり、そこら中に生えている雑草なども口にしていたと言った。
「こんな生活をしていると、時々ふと思うことがあるんだよね」
この荒んだ生活の中で茂吉は、自らウズメの木の元で命を断ったらどうなるのか、と考えることがあると言った。
最後の村人となってしまった茂吉が、ウズメの木の元で生まれ変わったとしたら、その生まれ変わった茂吉は……。
「なぁ、アンタ、俺が本物の人間か、そうでないか、どっちか分かるかい?」
そう言って真っ直ぐ私を見据える茂吉の瞳に、私は何か恐ろしいものを感じた。
「な、何を言ってるんですか? 茂吉さんは……茂吉さんですよ!」
そうだ、目の前の茂吉はひどくやつれ、その生活も荒んではいるが以前の茂吉と何ら変わらない、あの頃の茂吉のままだ。
たとえ人を殺めたとしても、そうであって欲しいと心の底から願いつつ、私は茂吉の小指の爪を確認しようと視線を落とした。
しかし、茂吉はあぐらをかいた足の上で両手を組んでいる。
茂吉の小指の先が見えないだけでなく、それを確かめようとしている私に気付いた茂吉は、その手を決して見せようともせず、その顔に薄ら笑いさえ浮かべていた。
そんな茂吉の様子に、万が一にも茂吉が人ならざる者だとしたらと思うと、私の膝は小さく震え出した。
「すみません、先を急ぎますので……私はこれで失礼します」
逃げるように家を飛び出したのは、心のどこかで危険を知らせる小さな音が、鳴り止まなかったせいかもしれない。
そもそも茂吉が語った内容がすべて事実とも限らず、村人達は単に流行り病で亡くなったのかもしれないと自分にそう言い聞かせようとした時、砂浜に転がる何かに私は目を奪われた。
それは白く丸みを帯びた、しゃれこうべだった。
波が寄せる度に、無数のしゃれこうべがゴロゴロと砂の上に転がっていた。
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