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私は耳を疑った。
茂吉は今、村人達は全員死んだ、と言ったのか?
「……死んだ? 流行り病ですか? 茂吉さんは大丈夫なんですか?」
寝起き間もない茂吉に、私は次から次へと質問を浴びせた。
「いや、病気……じゃないんだ。話せば長くなる」
私は茂吉の目がしっかりと覚めるのを待つ間、以前とは打って変わってひどく痩せこけた茂吉の顔を見つめていた。
「お茶でもあればいいんだけど、何にもなくてね」
「いいえ、どうかお構いなく」
どうやらこの家には、口にできる物は何もないようだった。
「何から話そうか……」
ついさっきまで眠っていた布団を畳むことなく、その上にあぐらをかいた茂吉はぼろきれのような着流しで、大きくはだけた胸元からは肉付きの無い皮膚の下に、あばらの骨が見えている。
以前、この村へやって来た時も質素な暮らしではあったが、ここまでひどい有り様ではなかった。
「茂吉さん、ちゃんと食べていますか? よかったらこれ……」
私はここへ来る前に手に入れていた握り飯を渡すと、茂吉はそれをしばらくの間、無言で見つめていた。
「米を見るのは、いつぶりかな」
茂吉は白米をゆっくりと味わうように、一口一口を噛み締めている。
山から下りてくる途中に見えていた田畑も今ではすっかりと雑草で覆いつくされ、この二年で米も野菜も作られていないように思えていた。
「あれからいったい何があったのですか?」
茂吉は最後の一欠けらを口に頬張り、それを飲み込んで一呼吸置くと静かに語り始めた。
◆
最初の異変は、重松の妻・フクだった。
病に伏せていたフクは長い間ずっと寝たきりで、妻想いの重松は働きながらフクの世話をしていた。
そんな寝たきりだったフクがある日突然、病に伏す前のように村の中を元気に歩き回り、村人達を驚かせた。
フクと重松は、長い間の看病のおかげでようやく病から解放されたと喜び、村の者達もずっと心配していたフクの病気が治ったのを素直に喜んだ。
しかし、それから少しして村から重松の姿が消えた。
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