神隠し(1)

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 フクへ()いても重松の居場所は分からず、忽然(こつぜん)と姿を消した重松に村中は騒然となった。  重松は畑で作物を作るのを仕事としていたため、一人で漁に出掛けて海に落ちたり、猟で入った山の中で熊に襲われたなどとは到底考えられない。  皆が心配する中、重松が姿を消してから七日が経とうとしていた時、山から下りてくる重松の姿があった。  今までいったいどこにいたのかと尋ねる村人に、重松はただ茫然と遠くを見つめるだけで答えようとはしなかったが、肩を揺さぶって何度も問い詰める村人に、重松は山で山菜を取っていたと答えた。  だが、その割に重松の手には何もなく、七日間もの間、山に籠っていたにしてはやつれたりもしていなかった。  重松の言動に違和感を覚えたものの、こうして無事に村へ戻ってきてくれたことに、村人達は心から安心していた。  次に異変があったのは、重松が最も仲を良くしていた男・平蔵(へいぞう)だった。  平蔵もまた重松のように忽然と姿を消すと、その七日後にひょっこりと姿を現した。  誰が訊いても平蔵はどこで何をしていたのか思い出せないようで、村人達は重松に続いて平蔵にも心配の目を向けたが、当の重松と平蔵は以前と変わらずよく働き、村の者と普通に言葉も交わし、失踪したのを除いて何一つ変わった点はなかった。  ただ、不思議な出来事はそれだけでは収まらなかった。  今度は平蔵の妻、子供、父親、母親と、平蔵の家族が一人ずつ順番に消えては七日目を迎える頃に戻ってくるというのが続き、やがてその奇怪な出来事は、ほかの家にも飛び火した。  こうして誰かが行方をくらまし、再びその姿を見せるというのが続く内に、村では神隠しにあったのではないかと噂されるようになっていった。  そんな不思議な出来事が立て続けに起こるようになると、俺は村人達の言動に注意を払うだけでなく、ある疑問が頭を過ぎった。  フクの夫の重松、重松の友人の平蔵、そして次は……。  いずれも姿を消した者と極近しい者が次に姿を消している。  なぜ、そうなのか?  一度姿を消した村人を注意深く観察していると、そのいずれにも極わずかな共通点が一つだけあった。
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