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作戦①
教室の自席に着き、肘をついて窓の外の薄青色の空を眺めながら、ずっとどんな作戦でいこうか考えていた。朝のHRの時間から、一限目の終わりまで、ずっとだ。
幸いなことに、私の席は教室の左後ろの角だったから、先生に注意されることもなかった。さらに幸い? なことに、私は中学の時いじめられていたから、やられたら嫌なことはすらすらと思いついた。
そんなこんなで私はいくつかの作戦を立て、この一限終わりの休憩時間から実践してみることにした。
まずは、作戦①。「無視」作戦。
授業が終わり、優木が私の席に近づいてきた。
「お疲れー。山村今日ずっと窓の外見てたよね」
「……」
「まだ暑いけどさ、こうやって窓の外の雲を見てると、もう入道雲じゃなくていわし雲が浮かんでるんだよね。そう考えるともう秋なのかな。確かに最近私、食欲の秋! って感じだし」
「……」
私が無視をしていると、一瞬、あれ? というふうに首を傾げた優木だったが、しばらくして「ああ」と何かに納得したように呟いた。
「沈黙は肯定ってやつね! 了解!」
ん?
「食欲の秋ってことでさ、前々から行きたかったクレープ屋さんに行こうと思ってて」
「……」
「今日の帰り寄ってかない?」
「……」
「あと、駅前に美味しいって評判のラーメン屋さんがあるんだけど」
「……」
「明日寄ってかない?」
「……」
「あと、そのラーメン屋の近くにパンケーキ屋さんがオープンするらしいんだけど」
「……」
「明後日寄ってかない?」
「……」
「あー、話してたらなんかお腹減ってきちゃった。山村のお弁当少し貰ってもいい?」
「……っ」
無視しているうちに優木は勝手に机の横にかけた私のカバンから弁当を取り出すと、隣の席から椅子を持ってきて座り、弁当を広げ「いただきまーす」などと宣いやがった。
「ちょっと待てーい!」私はたまらず声を張り上げる。
「なに? 沈黙肯定ごっこもうやめるの?」
「沈黙肯定ごっこってなんやねん! 無視してんのに勝手に話進めんなや! あとどんだけ腹減ってんねん!」
「あはは! 山村が関西弁でツッコんでる! 似合わなーい」
「うるさい! 私だってこんなにツッコんだの初めてだわ!」
「あ、この唐揚げ美味しい」
「聞けや!」
結局優木は私の弁当を半分近く平らげた後、頬にご飯粒をつけて満足げに帰っていった。作戦①、失敗。
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