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置き去りもの同士
世界から置き去りにされたようなその交通公園跡地は、本当にその全てが“置いていかれた何か”でしかないように見えた。錆び付いて今にも崩れそうになったままの無灯信号機に、もう誰も乗れないようなボロボロの自転車、伸びっぱなしになった雑草、夕風に吹かれてカラカラ鳴る風見鶏。
そのどれもが今の俺にとても近しいものに感じられて、なんとなく胸の中にもやついたものが込み上げてくるようなその空間の中で、その制服姿は異彩を放っているように見えた――今を生きている証とでも言わんばかりのその制服が、何もかもに捨て置かれたような場所にひどく不似合いに見えたのだ。だが、その不似合いさが奇妙なくらい目に焼き付いて。
「あ、……」
思わず声をかけようとして踏み留まる。
危ない危ない、何しようとしてんだ俺は? このご時世、未成年に声をかけるなんてそれ自体が地雷原に足を踏み入れるのとそう変わらないことだし、それにもし気付かれてもなんていうんだ、『なんだか目を奪われた』? 危ないやつだと思われるのは必至じゃないか。慌てて踵を返す。
しかし、漏らしてしまった声は彼女の耳に届いていたようで……。
「お兄さんこんなとこで何してんの?」
「いや、別に何も……」
まさか向こうから話しかけて来られるとは思わなくて、つい挙動不審になってしまう。少女は「ふーん?」と何かを面白がるように目を細めてから、人懐っこそうな笑みを浮かべた。
「それじゃ、うちと一緒だね」
「――――――、」
息を呑むような笑みだった。
夕陽に焼かれる廃墟同然の公園で見るその顔はどこか嘘臭くて、なんとなく虚しさみたいなものも感じずにいられなくて。
だから、俺は舌の上で消えてなくなりそうな言葉をどうにか手繰り寄せて反論――にもならないだろうか、言葉を返す。
「ちゃんと制服着て学校行ってんだろ? なら何もしてないってことはないんじゃねぇの?」
我ながら毒にも薬にもならない、あまりにもつまらない返しをしたと思った。しかし、そんな俺の言葉の何かがツボにハマったのか、少女は突然笑いだした――宵闇の迫る空の下で、その姿はどこか……。
言葉を失う俺を気遣うように「あ、ごめんね?」と言ってから、クスクスと最後に微笑んで口を開いた。
「お兄さんってさ、けっこう純粋だよね」
「え?」
「これさ、フリなんだ」
「フリ?」
「学校行ってることにしないと外出れないし」
少しずつ、世界から光の名残が失われていく。そのわずかな残滓にしがみつくような微笑みが、なんだか妙に映えていて。
「捕まってんの、うち」
「は?」
「監禁されてんだ」
「……は?」
地平線を宵闇が塗り潰していくなか。
彼女の声は、妙に浮いているように思えた。
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