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黒い妖精のはじまり
「以前の私は、桜色の妖精で名前も違ってた。そんなあたしが見えたのは小学校を卒業したばかりの少年」
明るい子だった。妖精が見えるのには程遠いくらい元気で、悩みもあるのかと訊けば彼は『なんだろう』と考えるだけでマキが困るほど。
「だけどある日、中学校の帰りの時間になっても彼は帰ってこなかった」
両親は警察に行方不明届けを出し、マキは心当たりのある場所を探すも見つけられず。見つかったのは、
「橋の下の川」
それを聞いた瞬間、洸介はビクつく。
「······原因は」
「親が学校に粘り強く問いかけて原因を追求した結果、SNSによるいじめが原因と判明」
現時代の問題である。
「······あたしはその子の両親が原因を見つけるまで分からなかった、学校に彼と行ったこともあったけどいじめは見たこともなかった、のに」
結局は自分が見えなかっただけで彼は毎日がきっと辛かったであろう。だが彼に聞くことはもうできない。
マキは立ち上がり朝焼けを細めで見ると、
「あたしはなに一つ彼のことをわかっていない愚か者だったの。あんなに遊んだのに、楽しかったのに、なのに彼は死を選んだ」
そのとき黙って聞いている洸介の鼻にそよ風に流れた水滴が触れた。
「それからずっと、ずっと後悔してる。あのときなぜあたしは、彼にもっと話を聞いてあげなかったのか、なぜもっと心に寄り添ってあげなかったのかって······あたしなんて妖精失格なのよ」
マキが1人苦しんでいるときに元気な妖精にイラつきケンカにもなったのだった。
話しを全て聞いた洸介だったがマキを慰めてあげることはできない。なにせついさっき自殺をはかった人間がなぜ出来ようか、朝の日差しを浴びて2人は自然と家に帰っていく······。
1度お風呂に入って汚い砂埃を洗い流し、着替えた洸介はベッドで仰向けに。ただ呆然と天井を見ていた。
その横で顔が傷だらけのマキは体育座りで監視するように彼をみはっている。
「なんでずっとそこで見てるの?」
「······また死のうとするかもしれないでしょ」
もうしない、死のうとした人の言葉なんて誰だって信用するわけがない。
当たり前かとマキをちら見していると痛々しい顔の傷に耐えかね、
「よっと」彼は起き上がり外に出ようしたらやはり黙って付いてくるので、
「自殺じゃないよ、コンビニに食べ物を買いにいく······」
本当に買い物だけをして帰ってきた洸介はおにぎりとサンドイッチを口にする。
「おいしい、マキも食べる?」
「あたしは別に」
「妖精って食べなくてもいいんだ」
「うん、まあ」でもなんだか食べたいのかこちらにそっぽを向いている。
「食べていいよ、僕こんなに食えないし捨てるのは妖精としては嫌なんじゃない?」
「食べられないのに買うなんて」
「いいから食べなって」
あくまでも勿体ないからと仕方なくもらった卵サンドはめちゃめちゃ美味しく、
「お、おいしい」と声がこぼれてしまうほど。
――2人は食べ終わり洸介は次にコンビニで塗り薬を買ってきていた。
「ホラッ、塗り薬だからぬるよ」
「いつのまに、どうして」
「なに買ったか見てなかったの?」
「そ、それは」死なせるもんかとただ動向だけに集中していたため買ったものは目に入っていなかった。
「じゃあ塗るよ〜」
「ひゃ、いた」
「ガマンしてね〜」
「う〜、いたっ」
痛いと声を出しつつもしっかりと洸介の塗り薬を傷に塗ってもらうマキ。
「――終わったよ」
「ありがとう」
「······うん」
「ふぁあ〜あ〜、寝てないからあくびが出るよ」
「寝るの?」
「うん、マキも疲れてるでしょ、寝てていいよ」
「いいえ、わたしはあなたを見張ってる」
「わかったよ、おやすみ」
再び体育座りで見張るマキ、飛び降りる前と違う気配を感じてはいたがそれも嘘かもしれないと気を抜かないように心がけたのだった。
しかし、
「スー、スー······ハッ、しまったっ」
心身の疲れでうっかり寝入ってしまったマキが目をやるとベッドに洸介の姿はなく、またやってしまった彼を探しにと立ち上がる······。
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