ひいづるところ・手にしたもの。手放したもの。

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 視線を向けず、静かに出た一刀の言葉。錦にとって答えでは無かったが、其のまま墓所を後にしたのだった。  御所へと戻った一刀と錦。雪代を始めとする一部の側近達が揃い出迎える姿が。一刀は、皇家を守る筆頭格と其の側近一名のみを、直ちに御所へ呼び寄せる様に命じたのだ。一刀の突然の命に、数名の側近達は首を捻って戸惑う様子を見せる。只、雪代のみが神妙に受け止めていた。傍らに控えていた錦も、他と同じく淡々と事を運ぶ一刀を不思議そうに眺めつつ。  御所に設けられた、謁見の間にて。東の皇家の血を引く筆頭格達、並びに其の側近が一刀の御前へ集められた。座する者全てが姿を表した帝たる一刀へと、厳かに拝する様。勿論、傍らへ控える錦も倣い拝を。 「面を上げられよ」  静かに、低く告げられた言葉。其れへ、皆が徐ろに顔を上げる。 「本日、皆に集まって貰うたのは他でもない。私の此れより先の事について、告げなければ成らぬ事がある」  其の言葉に、其々の表情が硬くなった。徐に、再び開く一刀の口。 「皆、勘違いをしておろうが、我が后妃は男子(おのこ)である。錦殿は、西の帝の弟君で在らせられるのだ」  飛んでもない一声が投じられた。其々様々な言葉を予測していたが、其処に集まった者全てが的を外していた。雪代只一人を除いて。言葉も、声も忘れてしまった面々は、呆然と錦を見詰めている。其処には勿論、久遠の姿も。当の錦はこんな場で何の構えも無く、己の素性を明かされ、注目を浴びている事に驚き等通り越し放心に近い状態。 「当然、世継ぎを授かる事は無い。そして、世継ぎを儲けるつもりも無い。側室は無用」
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