ひいづるところ・手にしたもの。手放したもの。

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 更なる追い討ちの言葉。皆、ざわつく余裕も無い。 「今後其の事について、並びに此れより先の世代でも后妃との子を儲けぬ場合の帝位継承についても、皆で慎重に思案していきたい。そして、此の度……皆が守る誇りある血を私で絶えさせる事へ、心より御詫び申し上げたい」  前を見据えたままそう続けた一刀は、座する身を今一度正し、地に手を付ける。其れは、額をも地へ付けられた拝をする姿。皇家の者全てへ、謝罪の言葉と共に拝を捧げたのだ。錦は、其の一刀の姿に漸く我に返って驚き、一瞬表情を強張らせた。そして、涙が浮かびそうになるのを必死で堪え、錦も共に額を付けて東皇家の者へ拝を捧ぐ。  皆、此れが如何に飛んでも無い事態か分からぬではない。天以外へ、拝をする事の無い帝。其れが、家臣である己等へ拝しているのだから。有り得ない、幻の如く光景へ、只放心していた者全ての者達も漸く我に返り、一刀へ遅れて拝する。 「何と言う事……よせ……帝!御顔を上げられよ!上げて下され……っ!」  一刀の姿に居たたまれず、従兄弟の一人が思わずそんな声を上げてしまう程で。其の声に、徐に頭を上げる一刀。真っ直ぐ前を見据えた、何時も冷たく見える其の瞳。其の中には、後悔も迷いも無い、強い意思を映していた。 「本日の謁見は、一先ず此処迄とさせて貰う。皆の足労、感謝致す」  立ち上がる一刀は、退席を后妃である錦へも促す。未だに声すら出す事叶わぬ錦だが、錦も座する身を正し今一度、皇家の貴公子達へ様々な思いを込めて深く、深く頭を下げた。皆、錦の其の様に複雑な表情だが、先程一刀へ声を上げた従兄弟が一番に頭を下げたのを機に、皆我に返り一斉に錦へも頭を下げる姿。一刀は錦を伴い、部屋より出た。其の後、静かな部屋でざわつける程度迄皆の心に余裕が出るには、暫く時を要した様であった。
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