星の偶像

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オープンカフェの店の中に入り席につくと彼女はぐったりとくしゃくしゃのストールのようになり辛うじて椅子に引っかかっている。 僕はトイレに急いだ。ハンカチを洗面台で流水に浸して絞り、彼女の下に戻ると、また声をかけた。 「ねえ!楽にして仰向けにしたら。目は閉じてていいよ。ハンカチを持ってきたから。」 素直に彼女がモゾッと動き、上を向いたその額に、絞ったハンカチを半分くらいに広げて置いた。 「レモンソーダと、レモンジュースをください」 店員にはそう、声をかけて僕も席についた。風が通り抜ける度に気化熱でハンカチは冷えてくれるはずだ。 彼女は目の上に置かれたハンカチに時折手を当てている。 飲み物が運ばれてくると、 「レモンの冷たいやつ、飲んだ方がいいよ。」 そう声をかけ彼女の前にレモンソーダとレモンジュースの二つのグラスを置いた。 そして二つにストローを挿した。 暫くそうしていた。風が何回か通り過ぎて行った。 目の前を犬を連れた老婦人が通っていく。 風がすう、とハンカチを冷やして吹き過ぎる。 「はああああー。」 大きな溜息をついた彼女は漸く拡げた片手にハンカチをかけて頭を下げ、元の位置に戻した。そしてレモンサイダーのストローを口にして、ぐほっと咽せた。 レモンジュースの方を僕が差し出すと、ごくごく飲んで、あっという間に小さくなった、氷だけのグラスがテーブルの上に残った。 「もっと飲む?」 訊くとちょっと考えて 「大丈夫。」 そして頭をぐるりと回して 「ふう。あーやばかったわ。…よくなった。やっぱり冷たいモノよね…。」 そう呟き 「ありがとね…。」 と漏らした。まだ弱々しい声だ。しかし、身体はしっかりと上半身を支え姿勢がしゃんとして、目にも力がある。回復して来たようで良かった。
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