星の偶像

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あてようとしたらパカッと手の指を開けて目を見開いて、「何。」 と言う。 「これ……を」と彼女の真上からまさしく額にハンカチを載せようとしていた格好から 向き直り、片手に載せたハンカチを手渡しで渡すべく差し出した。 彼女は何も言わずまた目を閉じ、ぐんなりとなり、面倒臭そうにこちらに腕を伸ばした。 彼女は受取った濡れハンカチを目にあてて目頭を押さえている。 ハンカチは別に返してもらわなくても良かったが、様子からしてあまりに彼女の調子が悪そうなので噴水の縁に移動し(ベンチは彼女が寝そべっているので)ずっと様子を見ていた。 見動き一つせず、同じ姿勢で周りのことなど気にもせず彼女はハンカチでアイマスクして片手を目頭にあててじっとしている。 ハンカチが温くなるだろうと、彼女の 方に歩いて行って、「大丈夫?デスカ。」 と、声をかけて「ハンカチ替えますよ。」と言った。 噴水の水は冷たい。 3、4回程繰り返しただろうか。 ずいぶん長い時間、噴水の縁に腰掛けては ハンカチを替えに行くということを繰り返した。 彼女はずっと動かなかったが、4、5回目くらいにハンカチを替えにいこうとすると、むくりと起き上がった。 虚ろな目をしてまだ青白く、肌は青磁のよう。顔色の悪さが目立って見えたが、口を開いて言った。 「ありがと。これ。」 透き通った、注意して聞き取らないと聴こえない声。 そして目にあてていたハンカチを綺麗に畳んで下を向いたままこちらに差し出した。
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