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「あのハンカチ、冷たいのが大分良かったの
」
彼女は頭痛持ちなのだと言った。冷やしたハンカチで随分助かったと。時々酷い発作が起こるのでと。
彼女と話すのはまるで藤の花を愛でるかのような時間。
薫り高く、風に揺れ動く藤の見目麗しい姿に見惚れるように、彼女の一挙一動足が胸に刺さった。
ハンカチを冷たくして、よかったァ!
と思う。
そんなこんなで少しづつ交わした言葉をことごとく胸に仕舞いながら、育んだ時間は光輝く時間。
彼女は頭痛の無い時は、くるりと表情をよく変え、生意気な、目を見張る科白を吐いて見せた。
次に何を言うかな、とか、どんな顔をするかが楽しみで僕の中には会話が溢れた。
彼女が元気の無いときには、何とか元気づけようと前述のように言葉を繋いだ。
バタンと扉が閉まるまで。
彼女は徐々に僕に気持ちを押し返してくれるようになったと思う。
しかし本当によく分からない彼女だ、というのが正しい。
頭が痛いとき、元気を無くしたとき、
彼女は噴水のある公園に来るようになったが。
僕は思い返せばいつも彼女を待っていた。
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