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普通の世間話をしている最中に軽く彼女は言った。
「引越すの。」
「…。」
後何を言っていたか頭に入っていない。
彼女の科白を聞いているようないないような、下を向いたまま僕は信じられないような気持ちと、彼女ガキメタコトニナニモイワナイ…!という今思うと訳の分からない決意と、そのほうが格好いいし、あと腐れない別れ、などという考えが渦巻いて何一つとして、言葉なく、彼女が去っていく様子を見ていた。
「これでお別れ。」
そう言ってくるりと背を向け、普段歩いて行くのにその時ばかりは車に乗りこんだ彼女はドアをバタンと閉めた。
鉄のドアを。
ドアが閉まった時から待つことはなくなり僕は行く道を彷徨っている。
確かに時間はあった。
僕と彼女を繫いでいたのはあの公園。
彼女が去った後すっかり行かなくなった場所だが、
冬の寒さが肌を刺すのが感じられる頃、流星の日夜が佳境に入る前にまた僕はあの場所に行ってみる。
彼女に会えることが無くても。
この街以外のどこかに彼女はいる。
今日の夜のしぶんぎ座流星群も、
多分どこかで見ている。
同じものを見ていると思うと
つい星に思いを馳せてしまうので、
今度会ったら星の話でもしようかと思う。
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