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「もちろんだよ。」
僕は微笑む。
「僕たちはお付き合いする仲になるわけだけど、君の許しなしに触ったりしないから、安心してよ。君が嫌なことは、そう言って。遠慮なく言って。すぐに離れるから。そして、よろしく。」
僕は手を差し出して握手を求めた。彼女はおずおずと左手を差し出した。
「そうね…。よろしく。」
ほんの指先だけをちょんと差し出すので、よっぽど警戒しているんだなと僕は感じた。
軽く手先を受け取めるだけにして、僕は尋ねた。
「手を取るのは、大丈夫?」
「今は大丈夫よ。」
彼女は弱々し気に微笑んだ。彼女の手を取って僕は続けた。
「もう何処かへ急に行ってしまわないでね。僕が路頭に迷うから。」
「そうね。」
「君みたいな人が本当に居るんだね。まあ、君との仲が普通の男と女の関係みたいになる、とは思わなかったけど、聞いてみなきゃ言ってみなきゃ分からないものだね。僕たちの特別な間柄を形づくって行こうよ。」
「はぁ。そっかあ。あなたの言葉とっても嬉しい。
そんなふうに言ってくれる人が居るってこと、すごく嬉しいの、これでも。」
そう言って彼女はにへっと笑った。ほっとしたみたいだ。彼女から緊張の面持ちが消えて、僕もほっとした。
「あーなにかお腹が減って来ちゃった。気が緩んだのかしら。」
「好きなのを食べるといいよ。メニュー、これ。」
僕はメニューの冊子を渡すと窓の外を見た。今日は外を霧が立ち込めている。
「ナポリタンにしよ。」
そう呟き、彼女は手を上げて注文を済ませた。
「霧に変わったわね。」
窓の外を彼女も見やって言った。
「今日は陽が差す様子が見えないわね、珍しく。」
「僕達は新しく始まるけどね…。霧の中を手探りで行くみたいなことになるのかな。誰もが皆お手本通りの関係をつくっていくわけじゃない。霧深い日もあるって事だよ。でも。それも楽しいよ。君とならさ。」
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