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「あ、蟹が居るわ。」
「ん?沢蟹かな。」
「違うわよ、あそこにほら。中くらいの大きさはあるわ。」
「はははは。本当だ。生き物の居る川なんだねえ。」
「泥臭い蟹ねえ。」
「蟹も生きているんだね…。」
僕は何か訳の分からない言葉を返した。
彼女は首を捻りながら考え事をしているようだ。
「蟹ねえ。モチーフとしては。どうなのかしらね。」
本当に何かと言えば彫金の事を考える様だ。
お仕事熱心だねえ…と思いつつ僕は蟹を追いかけてみたり、横歩きをしてみたり、岸に近い所に泳いでいるメダカを掬ってみたりしていた。
空には太陽。段々と陽が高くなり、陽射しは力を増している。
そろそろまた、休憩を取らないと、彼女の調子が悪くなるかも知れないし、喉も渇いてきた。
ジーッと川面に向かってしゃがみ、さっきの蟹を観察しているかのような彼女に僕は声をかけた。
「ねえ!そろそろどこかの店にまた、入ろうか!」
彼女は動かない。
僕は近寄って彼女の顔を覗き込むと、目を閉じているじゃないか。
急いで声をかけた。
「大丈夫?!………頭いた?!」
「まだ平気…ちょっと支えてもらってもいいかしら、何処でもいいから店に入りたいわ…。」
「そうしよう!おんぶ出来るよ!乗る?」
背中を向けたが彼女はそれはしないらしい。
「ごめん、連れてってくれる?」
と左手を差し出した。右手は額を押さえている。
左手を引いて僕は階段をゆっくり上がり、その通りの少し先に店を開いているオープンカフェに目標を定めた。
「僕にもたれても大丈夫だからね、少し歩くよ。ちょっと触るね、肩!持つからね。」
彼女の左手を前にして、肩を支えて、幸いにもそこにあった400m程道沿いを歩いたところにあるカフェを目指した。
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