星の偶像

49/51
前へ
/51ページ
次へ
「あ、蟹が居るわ。」 「ん?沢蟹かな。」 「違うわよ、あそこにほら。中くらいの大きさはあるわ。」 「はははは。本当だ。生き物の居る川なんだねえ。」 「泥臭い蟹ねえ。」 「蟹も生きているんだね…。」 僕は何か訳の分からない言葉を返した。 彼女は首を捻りながら考え事をしているようだ。 「蟹ねえ。モチーフとしては。どうなのかしらね。」 本当に何かと言えば彫金の事を考える様だ。 お仕事熱心だねえ…と思いつつ僕は蟹を追いかけてみたり、横歩きをしてみたり、岸に近い所に泳いでいるメダカを掬ってみたりしていた。 空には太陽。段々と陽が高くなり、陽射しは力を増している。 そろそろまた、休憩を取らないと、彼女の調子が悪くなるかも知れないし、喉も渇いてきた。 ジーッと川面に向かってしゃがみ、さっきの蟹を観察しているかのような彼女に僕は声をかけた。 「ねえ!そろそろどこかの店にまた、入ろうか!」 彼女は動かない。 僕は近寄って彼女の顔を覗き込むと、目を閉じているじゃないか。 急いで声をかけた。 「大丈夫?!………頭いた?!」 「まだ平気…ちょっと支えてもらってもいいかしら、何処でもいいから店に入りたいわ…。」 「そうしよう!おんぶ出来るよ!乗る?」 背中を向けたが彼女はそれはしないらしい。 「ごめん、連れてってくれる?」 と左手を差し出した。右手は額を押さえている。 左手を引いて僕は階段をゆっくり上がり、その通りの少し先に店を開いているオープンカフェに目標を定めた。 「僕にもたれても大丈夫だからね、少し歩くよ。ちょっと触るね、肩!持つからね。」 彼女の左手を前にして、肩を支えて、幸いにもそこにあった400m程道沿いを歩いたところにあるカフェを目指した。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加