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「とんだ目に遭ったねえ。ヨシヨシ。」
頭を撫でる真似をすると
「ちょっと今日は急に来たわ。あなたが居て良かった。」
レモンサイダーを真っ直ぐ見て言った。
「これ、飲んでもいい?」
「もちろんいいよ。僕も飲むの忘れてた。何か頼むけど、君はいい?」
「とりあえず2杯目を飲んでいるから、大丈夫よ。」
そう言ってにっこりと笑った。
よかった…笑顔が出たからちょっとは余裕も生まれたんだろう。
僕は店員を呼び、アイスコーヒーを頼んだ。喉の渇きをすっかり忘れていた。
「やっぱりまだ頭痛はあるんだね。大変だ。」
「持病だから仕方ないわ。酷くならなくって助かったわ。本当にありがとう。はい、これ。ハンカチ。冷たくて気持ちよかった。」
僕はハンカチを受け取った。
「僕の部屋にお招きしたいけど、今日は帰った方が良さそうだね。」
「そうね。そうする。もうちょっと風を楽しんでからね。」
彼女は笑みを含んだ顔だ。
「こうやって何も考えずに風に任せて景色を見ているのもいいじゃない。穏やかな時間…。こういうひと時は大事だわ。」
「そう?君は本当に相手が僕でラッキーだよ。君に密着しようと急ぐこともなし、ただ、君を側で見てられることを最優先するような気弱な僕でさ。いい風が吹いてるね。ずっとこうしていよう。君がそうしたいなら。」
そう言った2人の間には一陣の風が吹き抜ける。
でもこれは温かな距離なのだ。彼女の手を取ることができるだけの近さにある。
「それがいいわ。」
彼女はくふっと笑い僕に目をあてている。
「お部屋の散策は今度ね。」
2人寄り添うことはあっても溶け合うことはない。
2人は足並みを揃え、並んで立っている。
僕が手にしたのは温かで優しい時間。
ずっとずっと……大切に育んでいくのだ。
光溢れる時を。
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