第一話【悪魔の目を持つ娘】

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第一話【悪魔の目を持つ娘】

 物語には主人公がいる。そして仲間とともに困難に打ち勝ち希望へ突き進んでいくものだ。それは例えば、幼い頃に聞かされた悪の化身を倒す聖騎士様のお話のように。  そして善き者は報われ、悪しき者は罰せられる運命にあり、最後には必ず正義の信念を貫いた者の輝く世界が待っている……それは幸福と友愛の世界。  こういう世界が当たり前なのだと思いながら過ごした時期が、私にはあった。でも、そんなのは御伽噺の中のこと……。  もし私が貴族や王家の娘だったなら、この歳の頃にはきっと立派で可愛らしい服や、素敵なお菓子に囲まれ大衆からは一目置かれる。まさに物語の主人公のような経験ができただろう。  でも現実は、そうじゃない。  生きるっていうのはお世辞にも綺麗なものと言い難いものだったのだ。  今日だって……起きた時には、また一人同じ生活部屋の子がくるまったまま動かなくなっていた。ついこの間まで一緒に、いつかこんな場所から抜け出せるって……仮初でも意味のある希望を語り合っていたというのに。  私もいつか、こうなってしまう。ならばもう、頑張らなくて良いのかもしれない……。
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