田舎の墓場で出会ったものは

4/4
前へ
/4ページ
次へ
     最初に視界に入ってきたのは、細くしなやかな白い脚だった。  若い女の人が、墓場の奥で倒れていたのだ。  まだ性的な興奮を覚えるような年頃ではなかったが、美しいまでに白い生肌を見た瞬間、妙に感動してしまった。続いて「これは生気を感じられないほどの白さだ」という考えが頭に浮かび、「この女性はきっと死んでいるに違いない」と理解できた。  つま先から頭の方へと視線を向けていくと、おとなしい柄のワンピースや、細い腰のベルト、なめらかな胸の盛り上がりも見えてくる。そして再び肌色となる首筋、そこには小さな穴のような痕が並んでいた。細い筋になって血が流れているから、首を噛まれたのだろう。  さらに目を動かせば、整った顔立ちと艶やかな黒髪の向こう側。少しだけ離れたところに、一人の男が立っていた。  黒いスーツを着ているのは、墓場という場所を考え合わせれば、普通は喪服に見えるはず。でもこの男の場合、むしろ西洋的なパーティーのための夜会服のようだった。  だらしなく口を開いており、人間にしては鋭すぎる、牙みたいな前歯が覗いていた。それが赤く濡れているのだから、もう「私が女の血を吸いました」と告白しているようなものだった。 「ひっ!」  恐怖の声に続いて、私は叫んでしまう。  怪物だ!  ただし、ここは東京ではなく、信州の家の近くだ。そして信州の家は、蚊取り線香や蚊帳などのイメージが強かったので……。 「蚊だ! 蚊の化け物が現れた! 女の人の血を吸ってる!」  すると怪物は、私以上の大声で怒鳴った。 「馬鹿者め! 余は蚊ではない! 吸血鬼だ!」 (「田舎の墓場で出会ったものは」完)    
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加