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最初に視界に入ってきたのは、細くしなやかな白い脚だった。
若い女の人が、墓場の奥で倒れていたのだ。
まだ性的な興奮を覚えるような年頃ではなかったが、美しいまでに白い生肌を見た瞬間、妙に感動してしまった。続いて「これは生気を感じられないほどの白さだ」という考えが頭に浮かび、「この女性はきっと死んでいるに違いない」と理解できた。
つま先から頭の方へと視線を向けていくと、おとなしい柄のワンピースや、細い腰のベルト、なめらかな胸の盛り上がりも見えてくる。そして再び肌色となる首筋、そこには小さな穴のような痕が並んでいた。細い筋になって血が流れているから、首を噛まれたのだろう。
さらに目を動かせば、整った顔立ちと艶やかな黒髪の向こう側。少しだけ離れたところに、一人の男が立っていた。
黒いスーツを着ているのは、墓場という場所を考え合わせれば、普通は喪服に見えるはず。でもこの男の場合、むしろ西洋的なパーティーのための夜会服のようだった。
だらしなく口を開いており、人間にしては鋭すぎる、牙みたいな前歯が覗いていた。それが赤く濡れているのだから、もう「私が女の血を吸いました」と告白しているようなものだった。
「ひっ!」
恐怖の声に続いて、私は叫んでしまう。
怪物だ!
ただし、ここは東京ではなく、信州の家の近くだ。そして信州の家は、蚊取り線香や蚊帳などのイメージが強かったので……。
「蚊だ! 蚊の化け物が現れた! 女の人の血を吸ってる!」
すると怪物は、私以上の大声で怒鳴った。
「馬鹿者め! 余は蚊ではない! 吸血鬼だ!」
(「田舎の墓場で出会ったものは」完)
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